毒舌男子の愛は甘い。



「……あ……」



目を見開いたまま、凪の動きが止まる。



数秒だったはずなのに、その沈黙はやけに長く感じた。



何も言わず、ただ、見つめられている。



「えっと……変、かな……?」



視線をそらしかけた、そのとき──



「はあぁぁ!? 梓ちゃん!? なにその可愛さ!? やばない!?」



背後から、飛びついてくるような声。



「脚! 細っ! 白っ! コーデ最強!!顔も仕上がってるし可愛さ爆発してるんだけど!?」



佐久間さん。


声のボリュームとテンションが桁違いで、通行人も振り返ってる。


「ちょっと悠人くん、落ち着きなって!気持ちはわかるけど、うるさい!」


その後ろから、三浦さんが笑いながらたしなめている。


「え、これ落ち着ける?無理じゃない?今日のMVP確定でしょこれ」


佐久間さんは興奮が収まらない様子で、両手で頭を抱えていた。



……でも、水野くんはというと。


さっきからずっと、一言も発さないまま、私を見つめていた。


(……え? なんか、固まってる?)


眉間にわずかな皺、口元はぴたりと閉じたまま。


怒っているわけじゃない。でも、どこか表情が張りつめている。


「み、水野くん……?」


声をかけると、凪は一瞬だけまばたきして、小さく目をそらした。



「……似合ってる。……その服」


「っ……ありがとう……」



たったひと言なのに、耳の奥が熱くなる。


でも──その目は、どこか鋭さを残していて、


言いたいことを押し込めているように見えた。



(……なんだろう。水野くん、ちょっと様子が変)