毒舌男子の愛は甘い。

そうして迎えた、遊園地当日。



朝からうちに来てくれた千紗は、まるでプロのメイクアップアーティストみたいに、手際よく私の顔を仕上げていく。



「──よし、完成!」



最後にリップをぽんっと乗せて、千紗が満足げに頷いた。



鏡に映った自分は──いつもの私とは、まるで別人だった。


「……え、これ、本当に私……?」


思わずもれた言葉に、千紗は自信満々の表情で答える。



「そう!これが、“本気出した藤宮梓”!ナチュラルっぽく見せて、ちゃんと盛れてる。目元はふんわり大きく、肌はツヤ感重視。男子が好きな“なんか今日可愛い”ってやつ、完璧に狙ってるから!」



指を立てて力説する千紗は、すでに勝利宣言モード。


「でもさ、梓って元が良すぎて、“ほどよ可愛い”じゃ収まらないんだよね。もう“ガチで可愛い”まで来ちゃってるの、仕方ないじゃん?」


「な、なにそれ……」


「ほら、ピアスも最高に似合ってるし。下手したら芸能人感あるよ、今の梓」


「大げさすぎるってば……」



耳元で小さく揺れるゴールドのピアス。


束感を出して整えた前髪に、きらっと光るグロスリップ。


力みすぎず、でも“たまたま可愛い”を完璧に作り上げたスタイル。



(……水野くんが、これを見たら、どう思うんだろう)



ふと浮かんだ彼の顔に、心臓が跳ねた。


「大丈夫、自信持って。水野くん、絶対固まるから」


「か、固まられても困る……!」


「いいの、それが狙いなんだから」



あっけらかんと笑う千紗に、背中を軽く押された気がした。



バッグを手に取り、玄関を出る。


ドキドキはまだおさまらない。


けど、それ以上に──


(ちゃんと、見てほしい)


ほんの少しの勇気を胸に抱いて、
私は水野くんの待つ、待ち合わせ場所へと向かった。