毒舌男子の愛は甘い。

店は水野くんの言った通り忙しかった。



「藤宮さん、シロップ詰め替え忘れてる」

「え、あっ、ご、ごめんなさい!」


慌てて取ろうとしたら、隣からスッと手が伸びて、私の代わりにサーバーを持ち上げてくれた。


「……焦りすぎ。落とすよ」

「う、うん……ありがとう」


(もう……そのさりげなさが、やばいんですけど……)


言葉はそっけないのに、行動はすごく優しい。

距離が近くなるたび心がざわつく。




(もう、どうしよう、全部がかっこよく見える)



前髪をかき上げる仕草、


トレーを片手でさばく姿、ふとした横顔――


全部、目に入るたびに好きが溢れそうになる。



でも、まだ言えない。


言いたくない。



この関係を壊したくないから。



たぶん、水野くんは何も知らないから。    



私だけが勝手に、ドキドキしてるだけだから。



(それでも……この気持ち、大切にしたい)



そう思えるのは、水野くんだから。



水野くんに出会って、私は初めて“ちゃんと人を好きになる”ということを知った。



そのことが、ちょっとだけ誇らしくて、嬉しくて。


だから今は、そっとこの気持ちを胸の奥にしまっておこうと思う。




いつか、伝えられる日が来るまで。