毒舌男子の愛は甘い。



「なんでか、自分でもよくわかんない。でも……誰かに振り回されてるの見たくないし、無理して笑ってるの見ると、黙ってられなくなる。……で、言いすぎる」




そう言いながら、俺はようやく気づいた。


これはただの“バイト仲間への心配”じゃない。



「変わってない、なんて思ってない。ちゃんと変わろうとしてるの、見てたから」



視線が合う。


その瞳に浮かんだ涙が、胸に突き刺さった。



「アンタがまた、騙されたり、いいように扱われるのが嫌で……だから、余計に言い方キツくなった」



本当は──ただ、守りたかった。



「ほっとけないんだよ、アンタのこと。なんか知らないけど」



俯いたままの彼女が、また涙を流す。
そっと、手を伸ばした。



頬に触れると、びくりと体が揺れた。


でも逃げなかった。


そっと、涙を一粒、拭う。




「……泣くなよ、藤宮さん」


呟いた声は、自分でも驚くほどに優しかった。



「泣いてるの見ると、罪悪感すごいから。俺、言い方ほんと下手で……」



彼女の唇が、かすかに揺れる。
笑いそうになって、それでもまた涙が滲んで。



(あーもう……俺、なにやってんだ)



そのまま、彼女の頭にそっと手を置いた。


「……頑張ってるの、ちゃんと見てるから」



それが、今言える、精一杯だった。

 
冷たい風が吹いていたはずなのに。




その瞬間だけは、なんだか、ふたりの間にあたたかい空気が流れていた気がした。