毒舌男子の愛は甘い。




数秒間、固まったまま、何もできなかった。


でも、足が勝手に動いた。



(行かないと)



ドアを開けて、冷たい夜風が吹き込んだ。


ほんの少し前まで、あたたかかった部屋の空気が、急に遠く感じる。



「藤宮さん!」


呼び止めた声は、思ったよりも大きかった。


咄嗟に手が伸びて、小さな手首を掴んでいた。



彼女が驚いたように振り返る。
その目はうっすら赤くなっていて、涙が浮かんでいた。



「……ごめん」


短く、でも確かに、そう言った。



「言いすぎた。……泣かせてごめん」



その言葉を聞いた彼女の目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。



(……ああ、俺はいつも、こうだ)



「……私が、ダメ、だから…水野くんも、がっかりしたよね…?」



その言葉に、胸が締めつけられる。
違う。



「……がっかりなんて、してない」


ちゃんと伝えなきゃ。


言わなきゃ、このままじゃ、また彼女を傷つけてしまう。



「俺、他人には基本、興味ないし。深入りもしたくない。」


自分でもよくわかってる。


誰にでも優しくできるタイプじゃない。



「でも、藤宮さんは違う。」 



心が勝手に、反応する。


言葉にすると、余計に戸惑うけど、それが嘘じゃないのは確かだった。