佐久間が、また梓にちょっかいをかけている。
明るくて、ノリがよくて、誰とでもすぐに距離を詰めてくるやつ。
最初からそういう人間だってわかっていたけど──
その軽さが、なんとなく気に食わない。
そして、案の定、流されてしまってる梓にも、行き場のないイライラが募っていた。
「……連絡先、交換したんだ」
閉店後。
バックルームで梓に声をかけたとき、自分でも意図してなかったほど、言葉が鋭くなったのがわかった。
「……うん。なんか、しつこくて。断るのもなぁって……」
予想通りの答えに、喉の奥が冷たくなる。
「そんなんだから、チョロいって思われるんだよ」
(まずい)
言いすぎだってわかってた。
でも、止まらなかった。
「この前、言っただろ。優しくされたら、全部受け入れちゃうその癖、直さないとって」
梓のことを否定したいわけじゃない。 ただ──心配だった。
また誰かに、いいように扱われて、傷つくんじゃないかって。
笑ってやり過ごして、そのまま、泣くことにも慣れてしまうんじゃないかって。
「……自分を大事にしない人を、他人が大事にしてくれるわけないだろ」
静かに、そう伝えた。
本気でそう思ってる。
でも、目の前の彼女の顔が、みるみる曇っていくのを見て、後悔の波が押し寄せてきた。
(……また、やってしまった)
「……そうだよね。私、何も変わってない……」
震える声。
その一言に、胸がぐらりと揺れた。
言いかけた言葉を、彼女が遮る。
「お疲れさま」
その言葉と一緒に、彼女はバックルームを出ていった。

