毒舌男子の愛は甘い。

家のドアを開けた瞬間、冷たい空気が部屋の中に流れ込んだ。



けれど、梓の胸の中は熱くて、まるで凪の手首から伝わったあの熱がまだ残っているかのようだった。



焦った表情が、ふと蘇る。



凪に急に手を引かれたときのこと。



その一瞬の距離感、そしてしっかりと掴まれた手首から伝わった温もり。



凪のあの無表情な顔の裏に、どんな気持ちが隠れているんだろうと考えながら、言葉を反芻する。



「……がっかりなんて、してない」


「俺、他人にはあんまり興味ない」


「でも、藤宮さんは違う」


「なんでかは自分でもよくわかんないけど」



凪の一つ一つの言葉が、胸の奥に深く響いて離れなかった。



いつもは冷たくて、時にきつい言葉を投げかける彼が、こんなにも真剣に自分を見てくれていることに、驚きと嬉しさが入り混じる。


そして、気づいた。



(私、水野くんが好きなんだ)



ただ優しくされたから好きになったんじゃない。



不器用で、時には冷たく感じるけれど、ちゃんと心があること。



そして、その気持ちを伝えようと必死になってくれていること。



凪の言い方はいつもきついけど、それは本当の思いがあるから。



本当は優しいのに、素直に伝えられなくてもどかしいのも知っている。



梓は小さく息を吐いた。



胸の奥がぽかぽかと温かくて、涙がこぼれそうになる。



「私、水野くんが好き…。」



震える声でそう呟きながら、窓の外の夜空を見上げる。



そこには、これから歩む道のりを照らす、あたたかな光が確かにあった。