毒舌男子の愛は甘い。

冷たい夜風が頬をなでた瞬間、胸の奥がじわっと痛み出した。




(……私、また……)



変われてない。

変わりたいって思ったのに、また流されて。


何も成長してない。



泣きたくないのに。勝手に涙で視界が滲む。


うつむいたまま歩いていたその時だった。




「藤宮さん!」


焦った声が背後から響き、手首を掴まれた。振り返ると、そこにいたのは凪だった。


少し息を弾ませたまま、まっすぐ私を見ている。


驚いて立ち止まった私の前で、彼は静かに言った。



「……ごめん」



その一言が、妙にまっすぐで、あたたかくて。


「言いすぎた。……泣かせて、ごめん」



その瞬間、張り詰めていたものが一気にほどけて、ぽろぽろと涙がこぼれた。



「……私が、ダメ、だから……水野くん、がっかりしたよね……」



自分でも、そんなつもりじゃなかったのに。


本音が、ぽろりとこぼれ落ちた。


すると凪は、まっすぐ私を見て言った。



「……がっかりなんて、してない」


「……え?」


「俺、他人には基本、興味ないし。深入りもしたくない。でも……藤宮さんは違う。」



彼の声は少し戸惑ったようで、それでもあたたかかった。



「なんでか、自分でもよくわかんない。でも……誰かに振り回されてるの見たくないし、無理して笑ってるの見ると、黙ってられなくなる。……で、言いすぎる」


「……」


「変わってない、なんて思ってない。ちゃんと、変わろうとしてるの、見てたから」


「水野くん……」


「アンタがまた、騙されたり、いいように扱われるのが嫌で……だから、余計に言い方キツくなった」




私の胸に、ぐっとくる言葉が降ってくる。


「ほっとけないんだよ、藤宮さんのこと。……なんか知らないけど」


その不器用な優しさに、また涙があふれそうになる。



そして──



凪が、そっと私の頬に触れた。


驚いて顔を上げると、指先が一粒の涙を静かに拭ってくれた。


「……泣くなよ、藤宮さん」


少し照れたように目を伏せながら、ぽつりと呟く。


「……泣かれると、罪悪感すごいから。俺、ほんとに言い方下手で……」



いつもの堂々とした様子とは違う、戸惑ったようなその言葉に、少しだけ笑ってしまいそうになる。


けど、まだ涙は止まりきらなくて、私は目を伏せた。


すると今度は、彼の手がそっと、私の頭に置かれた。


ぽん、と優しく。


撫でるでもなく、ただ、そこにあるように。


「……頑張ってるの、ちゃんと見てるから」


「……うん……」


声じゃなくて、体温で伝わってくるものがある。



凪のその手のぬくもりが、
私の張り詰めた心を、少しずつ溶かしていった。



夜風はまだ冷たいのに、ふたりの間に流れる空気は、どこかあたたかかった。