休憩中、三浦さんも一緒にスタッフルームで休んでいた。
水野くんは黙って私の隣に座り、ぽつりと話しかけてくる。
「さっきのラテ、わるくなかった」
「……ほんと?」
「うん。最初より全然いい」
「ありがとう。水野くんが教えてくれたおかげ」
「普通に教えただけだけど」
その“普通”が、私にはうれしかった。
いつもは無口でそっけないのに、私にちゃんと声をかけてくれて、教えてくれて、フォローもしてくれる。
(……気づいたら、目で追ってること増えてきたかも)
「……水野くんって、ほんと頼りになるね」
ぽつりと出た言葉に、水野くんは少し驚いたようにこちらを見て、それから小さく笑った。
「おだてても、何も出ないけど」
その笑顔に、また胸がぎゅっとなった。
「……あー、やっぱ凪〜。梓ちゃんにだけ甘いじゃん」
三浦さんがニヤニヤしながらからかってくる。
「……別に、普通ですけど」
「いやいや、口調もいつもと違うし!
てか、照れてる?かわい〜」
「照れてねぇし」
水野くんは顔をそむけながらぶっきらぼうに答えたけど、耳がほんのり赤いのを私は見逃さなかった。
(……なんか、ちょっとかわいいかも)
***
バイトが終わると、水野くんと店を出る。
「藤宮さん、駅?」
「うん。あ……水野くんも?」
「うん」
自然な流れで並んで歩き出す。
会話は少ないけれど、変に気をつかわなくてもいい空気が心地いい。
「今日もありがとうね。いろいろ助けてもらって」
「……別に。」
「ふふ。やっぱ優しよね、水野くんって」
「……たぶん、そう言うのアンタぐらいだよ。」
「そんなことないと思うけど。」
水野くんは少しだけ黙って、それからぼそっとつぶやいた。
「……俺、基本誰かに教えたりするのめんどくさって思ってるけど、」
「え?」
「藤宮さんは、逆に教えたいなって思う時ある。」
心臓が、跳ねた。
「……そ、そうなんだ…」
「うん。」
顔を見れなくて、私は下を向いたまま笑った。
夜風が少し冷たくなってきたけれど、不思議と心はあたたかかった。
(……なんか、いまの会話、すごく嬉しかった)
もう少しだけ、こうして歩いていたいと思ってしまった。

