バイトに入り始めて数日、
最初は緊張で頭が真っ白だったけど、
今はオーダーを取る手つきやレジの操作に、少しだけ自信が持てるようになった気がする。
今日のシフトは、水野くんと三浦さん、そして私の三人。
三浦葉月さんは大学4年で、サバサバした性格の頼れる先輩だ。
「ねえ、梓ちゃん、知ってる?」
まだ水野くんが出勤する前、三浦さんが耳元でこっそり囁いてきた。
「凪って、普段はあんな感じだけど、梓ちゃんにはちょっと優しいのよ。フォローすぐ入るし、口調もやわらかい。あれ、あの子なりに気にしてるってやつだよね〜。まあ、本人は絶対認めないけど」
(私にだけ……?)
そんな風に言われるとは思ってなくて、頬が急に熱くなった。
ちょうどそのとき、入り口のドアが開く。
「……おはようございます」
無表情で入ってきた水野くんに、つい意識してしまって。
「お、おはようっ!」
声が裏返った。
「……どうした」
怪訝そうな顔を向けられ、三浦さんが後ろで吹き出している。
(……すぐ動揺するこの性格、ほんと直したい)
***
仕事が始まると、水野くんの手際はやっぱり見事だった。
お客さんへの声かけも自然で、動きに無駄がなくて、コーヒーを淹れる姿はまさに“プロ”って感じ。
(……水野くんって、ほんと仕事できる)
私はラテをつくるのに少し戸惑っていて、泡のきめ細かさに自信がなくて。
「ラテの泡、もう少し軽くしたほうがいいかも。温度も、ちょっと下げる」
「えっ、ごめんなさい!」
焦る私に、水野くんがすっと隣に立つ。
そして無言で私の手元に手を添えた。
「こう。手首の角度、これくらい」
近い。息がかかりそうな距離。
けど、水野くんはいつも通りの落ち着いた表情だった。
(……スマートすぎて、見惚れちゃう…)
「てか、謝りすぎ」
「え?」
「ちゃんとやろうとしてるの、わかってるから。そんなに謝んなくていい」
不意にかけられた言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

