翌日のお昼、大学の食堂のテーブルに座った瞬間──


「で!何があったの!?合コンのとき!!」


目の前の千紗が、ずいっと身を乗り出してきた。


「な、何がって……?」


「何が、じゃないよ。梓が途中で席立った時点でこっちはびっくりだし、水野くんとふたりして戻ってこないし、しかも……」


千紗は一瞬、周囲を見渡して声を潜めた。


「裕也くんから聞いたよ。“梓と抜ける"って水野くんが電話してきたって!どゆこと!?それ、つまり……そういう流れだったってこと!?」


「ち、ちがう!!そういうのじゃないから!」


慌てて手を振る。


「ほんとに、そういうんじゃない。ただ……私がちょっと泣いちゃって……」


「泣いた!?えっ、泣いたの!?梓が?」


「うん……ちょっとだけ。水野くんにズバズバ言われちゃって……」


「……え?ズバズバ?」


「うん。ダメンズばっか引っかかる理由、なんか分かるって。……私が“選ばれる側”でいようとしすぎて、自分の本当の気持ちをちゃんと選んでないんじゃないかって」


口に出してみて、改めて心に刺さる。


「……あの人ね、見抜くの上手いよ。」


「まじで…」


千紗が絶句する。


「え、それってさ、もしかして……刺さった?」


「……うん。かなり」


ふっと笑った。



「なんかね、久しぶりにちゃんと“見られた”感じがした。誰にも言われたことなかったの。私、優しすぎるとか、尽くしすぎるとか言われても、そうしなきゃ嫌われそうって思ってたし」


千紗は少し眉を下げて、頷いた。


「たしかに梓って、相手のことばっか優先するもんね。……で?そのあとどうなったの?」


「夜カフェでちょっと話して、それで終わり。連絡先は交換したけど……」


「連絡先!?交換したの!?」


「うん……。でも“友達として”ってちゃんと前置きしたから!」


「はいはい、ありがちなやつね〜。“友達として”から始まって、気づいたら恋に落ちてるってやつ」


「ちがうってば!」


口を尖らせたけど、千紗の目はニヤニヤしている。

「……でも、水野くん、優しかったよ。毒舌だけど」


「へぇ〜、毒舌に弱いんだ?」


「そういうんじゃない!」



バシッと千紗の手を叩く。


それでも彼女は楽しそうに笑った。



「ま、悪くないんじゃない?“選ばれる”だけの恋じゃなくて、自分で“選ぶ”恋、してみなよ。梓なら、できると思うけどな」


その言葉に、胸が少しだけ熱くなった。



うん──今なら、できるかもしれない。


そんな気がした。