正直、合コンなんて乗り気じゃなかった。


「人数合わせ」って言葉で無理やり呼び出されて、奢ってくれるって言うから仕方なく来ただけ。


席に着いても、笑う気にもならず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。



そんな中で、ふと目に留まったのが



──藤宮梓。



料理を取り分けたり、空いたグラスにすぐ気づいたり。


気配りができて、よく笑って、周囲に溶け込むのも早い。


(……器用な子、だな)



けれど、その笑顔はどこか作られたように見えた。


場に合わせた“いい子”の仮面。


たぶん無意識なんだろうけど──
“嫌われたくない”っていう気持ちが滲んでいた。


(……騙されやすそうなタイプ)


直感でそう思った。


案の定、これまで何人かのダメ男に引っかかってきたらしい。


本人はそれを笑い話みたいに話していたけど、
やっぱり、その笑顔はどこか無理しているように見えた。



***



「……アンタってさ、典型的にダメ男に好かれるタイプだよね」



言わなくてもいいとわかってた。


初対面で言うことじゃない。


でも、目の前の彼女を見てたら、喉元まで出かかった言葉を、抑えられなかった。



笑顔の奥に隠してる“傷”に、無性に触れてしまいたくなった。


(……ほんと、性格悪いな、俺)


それでも目を逸らせなかった。



どうしても、曖昧な優しさで誤魔化すのが嫌だった。



「……たぶん、今まで、“好きになってくれたから好きになる”って、相手次第の恋愛しかしてないでしょ」




口にした瞬間、自分の言葉が彼女にどう刺さるか、わかっていた。



案の定、彼女は無理に笑った。



その笑顔があまりに薄くて、空々しくて、胸が締めつけられた。



(……俺、何してんだ)



翔太の声に我に返る。



「言いすぎ」って言われて当然だ。



あんなに繊細そうな子に、初対面で踏み込むなんて、まともな神経じゃない。



そのあと、梓が席を立った。


「ちょっとお手洗い、行ってくるね?」


小さく震えたその声が、耳に残った。