○放課後、教室
黒板の縦書きに書かれている日付(9月24日)の下に「文化祭まで…あと1日!」と書かれている。
立夏「小夜、来て来て!」
小夜「え?」
装飾で飾られている教室の中で、折り紙の細くしたものを輪っかにした飾りをつけようとしていた小夜の腕を、教室に入ってきた立夏が掴むと廊下に連れていく。
○廊下、掲示板前
立夏に連れてこられた掲示板の前には、生徒がたくさん群がっている。
立夏「見て見て!カップルコンテストの出場者が掲示されてるよ!」
掲示板の前まで小夜を引っ張ってきた立夏が、選挙のように写真形式になって貼られている候補者のポスターを指差す。
ツーショットの写真の横にはでかでかとクラスと名前も書かれている。
小夜「うわあ…(すごい場違い)」
小夜は立夏と慎太郎の隣に並ぶ、偽彼女を頼まれた次の日に空き教室で撮った海翔との写真を見て苦い顔をする。
爽やかな顔で笑っている海翔の隣で小夜はぎこちなく笑顔を浮かべていて、とてもじゃないけどカップルには見えない。
立夏「ついに明日だね!小夜とはライバルだ」
小夜「あはは…りっちゃんたちに敵う気がしないけど…」
意気込むようにキラキラとした瞳で小夜を見る立夏に、小夜は苦笑いで返す。
小夜(賞金に釣られて乗ったこの偽彼女だったけど、よく考えれば愛のない私たちが優勝できるわけがないのに。…それでも、この関係も明日で終わりだ)
小夜は、少しだけ悲しそうな顔で目を伏せ、胸がズキンと痛む音を立てる。
立夏「この数日で、海翔先輩のこと少しは知れたんじゃないの?小夜の気持ちも、最初と比べて変わったんじゃない?」
何かを察したのか、優しく微笑みながら立夏が小夜に首を傾げながら語りかける。
小夜「そりゃ…変わった、けど…」
○(回想)
過去の映像(暗めの描写)がよみがえる。
口元から下だけ見える学ラン姿の男の人。
???「小夜、おまえが悪いんだよ。俺がおまえを好きじゃなくなったのは、おまえのせい」
○現在に戻る
小夜「…っ!」
立夏「小夜?どうかした?」
目をぎゅっと瞑りながら頭を片手でおさえてよろける小夜を、心配そうな顔をしながら立夏が支える。
小夜「ごめん…嫌なこと思い出しちゃっただけ」
立夏「…もしかして、中二のこと?」
小夜「…違うよ。もうあんなの覚えてないって」
心配そうな立夏に小夜はわざと笑って、「教室戻るね」と呼び止める立夏を無視して人混みをかきわけて来た道を走って戻る。
小夜(恋愛はもうしない。…したくない。どうせ傷つくとわかっているんだから)
○(回想)
二年前、中二・夏。
半袖の中学の制服を着て教科書を抱えている小夜が、立夏と笑いながら廊下を歩いて移動教室に向かっている。
小夜「慎くんとは昨日どこ行ったの?」
立夏「付き合って一ヶ月だったから、私が行きたかった水族館行ったんだぁ。お揃いのイルカのキーホルダーも買ったの!」
立夏がにやけながら筆箱についていたピンクのミニキーホルダーを小夜に見せる。
小夜「いいね。慎くんと付き合いだしてからりっちゃん毎日幸せそうだもん」
立夏「えへへ、毎日幸せだよ」
にこーっと頬を緩ます立夏に、小夜も思わず笑顔になりながら微笑ましく見つめる。
男子生徒①「あはは、やめろって…うわっ!」
ふと隣の教室から三人の男子生徒たちがじゃれつきながら出て来て、そのうちの一人が押されて小夜の方に傾いて来た。
小夜「え…」
急に視界が暗くなり、人が倒れてくると咄嗟に思った小夜は目を瞑る。
小夜(あれ…?)
衝撃が来ないことに不思議に思った小夜が恐る恐る目を開けると、目の前には半袖シャツの背を向けた男子生徒が立っていて、倒れかけた男子生徒を支えていた。
絢斗「あぶね…。おまえら気をつけろよ。人にぶつかるところだったろ」
男子生徒①「うわ、絢斗サンキュー!後ろの子もごめん!」
小夜に向かって両手を合わせて来た男子生徒に小夜は軽く笑いながら会釈で答える。
立夏「小夜、大丈夫!?」
小夜「あ、うん。大丈夫だよ」
心配そうに小夜の肩に手を置き顔を覗き込んできた立夏に笑顔で返していると、絢斗が振り返る。
黒髪に、顔のパーツ一つ一つがはっきりとしていて整っている、いかにもモテそうな男子。
絢斗「平気?」
小夜「え?あ、はい!あの、ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げる小夜に、絢斗が小さく吹き出す。
絢斗「別にいいって。てか俺らタメだし、敬語じゃなくていいから。隣のクラスの華原小夜だろ?クラスのやつらが隣のクラスに美少女がいるーって騒いでたから知ってる」
小夜「え!?別に、美少女なんかじゃないです…じゃなくて、じゃないけど…」
絢斗「ははっ」
もごもごと気まずそうに縮こまる小夜に、絢斗は口を開けてもう一度笑う。
絢斗「とりあえず怪我がなくてよかった」
絢斗は小夜の頭を微笑みながらぽんぽんと優しく撫でる。
その距離感に、小夜は不覚にもどきりとしてしまう。
小夜(私たちの出会いは、そんなよくある偶然が生んだ巡り合わせだった)
小夜(絢斗は、男女問わず人気者で)
大人数の笑顔の男女に囲まれながら、体操着姿でポケットに両手を突っ込み校庭を歩く絢斗の姿。それを教室の窓側の自席で上から見下ろす小夜の姿。
小夜(クールなくせに笑うと子どものように人懐っこい顔になって)
絢斗「小夜、背中に虫ついてる」
小夜「え!?取って!」
絢斗「嘘ー」
小夜「…はあ!?」
絢斗は大きく口を開けて笑う。
小夜(知れば知るほど、気になってしまう魅力を持っている男の子だった)
絢斗「小夜!」
笑いながら片手を上げ、小夜の名前を呼ぶ絢斗の姿。
小夜(そんな絢斗が好きだった。だから、付き合えた時は本当に嬉しかった)
小夜「絢斗が…好き」
絢斗「俺も。小夜が好きだ」
誰もいない昇降口で、夕陽を浴びながら告白をし合う二人の横向きの姿。
絢斗の返しに小夜が笑顔になり、それに釣られて絢斗も笑顔で小夜の頭を撫でる微笑ましい幸せなシーン。
小夜(…それなのに、付き合ってから三ヶ月が過ぎた頃、些細なことで喧嘩することが増えるようになった)
小夜と絢斗が言い合っているシーンで、絢斗がそのままどこかに行ってしまい小夜が一人で泣く場面が現れる。
小夜(一緒にいても笑い合うことが減って、でもこれはよくある倦怠期だとそう思っていた。そのうちまた元通りになれる日が来ると、そう信じていた)
雪が空からぽつぽつと落ちてくる風景。
立夏「小夜、明日から冬休み入っちゃうし、今日はクリスマスイブなのにまだ絢斗くんと喧嘩してるの?」
寂しそうな顔で教室で窓の外を眺めていた小夜に、立夏が恐る恐るといった様子で後ろから声をかける。
小夜「…りっちゃん、恋愛って楽しいことばかりじゃないの?」
小夜は泣きそうな顔で笑い、立夏に振り向く。
立夏「小夜…」
小夜「ごめんね、こんなことりっちゃんが言われたって困るだけなのに!大丈夫、ちゃんと話してくる!」
心配そうな顔の立夏に小夜がにっと笑い、教室を出ていく。
○廊下
小夜(今日こそ絢斗とちゃんと話して、ずっと言えなかったごめんねも言って、前までの私たちに戻るんだ)
隣のクラスの前まで来た小夜は扉をスライドさせようとしたところで、中から人の話し声が聞こえて来てその手を止める。
女子生徒「…ねえ人来ちゃうんじゃない?もしかしたら彼女さんとか」
絢斗「はっ、来るわけないから平気だよ」
小夜(…絢斗?)
聞き覚えのある声に、小夜はそっと扉を数センチだけスライドさせると強張った顔で中を恐る恐る覗き込む。
中では、絢斗と向き合うようにして机の上に女子生徒が腰掛け、絢斗の首に腕を回している。
絢斗は机の上に両手をつくと、ずいっと顔を近づけて女子生徒とキスをした。
小夜「あや…と…?」
ガラッと音を立てて扉を開けた小夜は、信じられないものを見てしまったと目を見開きながら、ぽつりと名前を呟く。
振り向いた絢斗は、動じることなくふっと小さく笑う。
絢斗「タイミングわる」
小夜「どういうこと…?今、何をしてたの…?」
絢斗「あーいいよもう。めんどくせぇ。俺たちもう無理だな、別れよ」
絢斗はイラついたようにガシガシと頭をかいてから、小夜の横を通りすぎて教室を出ていこうとする。
小夜「ちょ…っと待ってよ!なんで…」
絢斗の腕を慌てて掴んだ小夜の手を、荒々しく絢斗が振り払う。
絢斗「小夜、おまえが悪いんだよ。俺がおまえを好きじゃなくなったのは、おまえのせい」
絢斗は冷たい視線で小夜を見下ろすと、両手をズボンのポケットに突っ込み呆然と立ち尽くしている小夜を置いて行ってしまう。
小夜(私が…いけなかったの?すぐに謝らなかったから。苦しくて悲しいすれ違いから逃げていたから。だから、浮気したの?私のことなんてどうでもよくなっちゃったの?)
絢斗の後ろ姿が見えなくなっても立ち尽くしたままだった小夜が、ずるずるとその場に崩れ落ちる。
小夜「ふ…っ、うう…っ」
両手で顔を覆いながら廊下の真ん中で小夜が静かに泣き崩れる。
○現在に戻る
文化祭当日。
小夜(まだ始まって一時間とかなのに、すごい大盛況…)
黒板側に設置した暗幕の後ろからポニーテール姿の小夜が教室の様子を覗く。
すでに満席の教室では、友達同士やカップルなどがそれぞれの机に座って飲み物やパンケーキを笑いながら食べている。
クラスメイト女子「華原さん!たしか今、調理担当だよね!?」
小夜「え?あ、うん。そうだけど…」
暗幕の裏でパンケーキの上にホイップクリームを乗せていた小夜に、クラスメイトの女子が汗だくになりながら入ってくると小夜の肩を両手で掴む。
クラスメイト女子「メイド役の子が一人体調崩して保健室に行っちゃったの!この忙しさだし、表の人手が足りなさすぎて困ってて…お願い!これ着て、接客して来て!私はちょっと早めに交代できないか次の子にお願いしてくるからその間だけ!」
小夜「え、ええ!?」
「お願いね!」と一方的に告げると、クラスメイトの女子は慌ただしく教室を出て行ってしまった。
仕方なくメイド服に着替えた小夜が表に出ていき、ぎこちない笑顔で接客をする。
クラスメイト男子「華原さーん。次のお客さん」
小夜「あ、はーい!」
カップル二人を窓側の二人掛け席に案内した小夜は、受付のクラスメイトの男子に呼ばれて振り返る。
小夜「…え」
絢斗「…小夜?」
そこにいたのは、驚いたように目を見開いている少し大人っぽくなった他校の制服姿の絢斗だった。
黒板の縦書きに書かれている日付(9月24日)の下に「文化祭まで…あと1日!」と書かれている。
立夏「小夜、来て来て!」
小夜「え?」
装飾で飾られている教室の中で、折り紙の細くしたものを輪っかにした飾りをつけようとしていた小夜の腕を、教室に入ってきた立夏が掴むと廊下に連れていく。
○廊下、掲示板前
立夏に連れてこられた掲示板の前には、生徒がたくさん群がっている。
立夏「見て見て!カップルコンテストの出場者が掲示されてるよ!」
掲示板の前まで小夜を引っ張ってきた立夏が、選挙のように写真形式になって貼られている候補者のポスターを指差す。
ツーショットの写真の横にはでかでかとクラスと名前も書かれている。
小夜「うわあ…(すごい場違い)」
小夜は立夏と慎太郎の隣に並ぶ、偽彼女を頼まれた次の日に空き教室で撮った海翔との写真を見て苦い顔をする。
爽やかな顔で笑っている海翔の隣で小夜はぎこちなく笑顔を浮かべていて、とてもじゃないけどカップルには見えない。
立夏「ついに明日だね!小夜とはライバルだ」
小夜「あはは…りっちゃんたちに敵う気がしないけど…」
意気込むようにキラキラとした瞳で小夜を見る立夏に、小夜は苦笑いで返す。
小夜(賞金に釣られて乗ったこの偽彼女だったけど、よく考えれば愛のない私たちが優勝できるわけがないのに。…それでも、この関係も明日で終わりだ)
小夜は、少しだけ悲しそうな顔で目を伏せ、胸がズキンと痛む音を立てる。
立夏「この数日で、海翔先輩のこと少しは知れたんじゃないの?小夜の気持ちも、最初と比べて変わったんじゃない?」
何かを察したのか、優しく微笑みながら立夏が小夜に首を傾げながら語りかける。
小夜「そりゃ…変わった、けど…」
○(回想)
過去の映像(暗めの描写)がよみがえる。
口元から下だけ見える学ラン姿の男の人。
???「小夜、おまえが悪いんだよ。俺がおまえを好きじゃなくなったのは、おまえのせい」
○現在に戻る
小夜「…っ!」
立夏「小夜?どうかした?」
目をぎゅっと瞑りながら頭を片手でおさえてよろける小夜を、心配そうな顔をしながら立夏が支える。
小夜「ごめん…嫌なこと思い出しちゃっただけ」
立夏「…もしかして、中二のこと?」
小夜「…違うよ。もうあんなの覚えてないって」
心配そうな立夏に小夜はわざと笑って、「教室戻るね」と呼び止める立夏を無視して人混みをかきわけて来た道を走って戻る。
小夜(恋愛はもうしない。…したくない。どうせ傷つくとわかっているんだから)
○(回想)
二年前、中二・夏。
半袖の中学の制服を着て教科書を抱えている小夜が、立夏と笑いながら廊下を歩いて移動教室に向かっている。
小夜「慎くんとは昨日どこ行ったの?」
立夏「付き合って一ヶ月だったから、私が行きたかった水族館行ったんだぁ。お揃いのイルカのキーホルダーも買ったの!」
立夏がにやけながら筆箱についていたピンクのミニキーホルダーを小夜に見せる。
小夜「いいね。慎くんと付き合いだしてからりっちゃん毎日幸せそうだもん」
立夏「えへへ、毎日幸せだよ」
にこーっと頬を緩ます立夏に、小夜も思わず笑顔になりながら微笑ましく見つめる。
男子生徒①「あはは、やめろって…うわっ!」
ふと隣の教室から三人の男子生徒たちがじゃれつきながら出て来て、そのうちの一人が押されて小夜の方に傾いて来た。
小夜「え…」
急に視界が暗くなり、人が倒れてくると咄嗟に思った小夜は目を瞑る。
小夜(あれ…?)
衝撃が来ないことに不思議に思った小夜が恐る恐る目を開けると、目の前には半袖シャツの背を向けた男子生徒が立っていて、倒れかけた男子生徒を支えていた。
絢斗「あぶね…。おまえら気をつけろよ。人にぶつかるところだったろ」
男子生徒①「うわ、絢斗サンキュー!後ろの子もごめん!」
小夜に向かって両手を合わせて来た男子生徒に小夜は軽く笑いながら会釈で答える。
立夏「小夜、大丈夫!?」
小夜「あ、うん。大丈夫だよ」
心配そうに小夜の肩に手を置き顔を覗き込んできた立夏に笑顔で返していると、絢斗が振り返る。
黒髪に、顔のパーツ一つ一つがはっきりとしていて整っている、いかにもモテそうな男子。
絢斗「平気?」
小夜「え?あ、はい!あの、ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げる小夜に、絢斗が小さく吹き出す。
絢斗「別にいいって。てか俺らタメだし、敬語じゃなくていいから。隣のクラスの華原小夜だろ?クラスのやつらが隣のクラスに美少女がいるーって騒いでたから知ってる」
小夜「え!?別に、美少女なんかじゃないです…じゃなくて、じゃないけど…」
絢斗「ははっ」
もごもごと気まずそうに縮こまる小夜に、絢斗は口を開けてもう一度笑う。
絢斗「とりあえず怪我がなくてよかった」
絢斗は小夜の頭を微笑みながらぽんぽんと優しく撫でる。
その距離感に、小夜は不覚にもどきりとしてしまう。
小夜(私たちの出会いは、そんなよくある偶然が生んだ巡り合わせだった)
小夜(絢斗は、男女問わず人気者で)
大人数の笑顔の男女に囲まれながら、体操着姿でポケットに両手を突っ込み校庭を歩く絢斗の姿。それを教室の窓側の自席で上から見下ろす小夜の姿。
小夜(クールなくせに笑うと子どものように人懐っこい顔になって)
絢斗「小夜、背中に虫ついてる」
小夜「え!?取って!」
絢斗「嘘ー」
小夜「…はあ!?」
絢斗は大きく口を開けて笑う。
小夜(知れば知るほど、気になってしまう魅力を持っている男の子だった)
絢斗「小夜!」
笑いながら片手を上げ、小夜の名前を呼ぶ絢斗の姿。
小夜(そんな絢斗が好きだった。だから、付き合えた時は本当に嬉しかった)
小夜「絢斗が…好き」
絢斗「俺も。小夜が好きだ」
誰もいない昇降口で、夕陽を浴びながら告白をし合う二人の横向きの姿。
絢斗の返しに小夜が笑顔になり、それに釣られて絢斗も笑顔で小夜の頭を撫でる微笑ましい幸せなシーン。
小夜(…それなのに、付き合ってから三ヶ月が過ぎた頃、些細なことで喧嘩することが増えるようになった)
小夜と絢斗が言い合っているシーンで、絢斗がそのままどこかに行ってしまい小夜が一人で泣く場面が現れる。
小夜(一緒にいても笑い合うことが減って、でもこれはよくある倦怠期だとそう思っていた。そのうちまた元通りになれる日が来ると、そう信じていた)
雪が空からぽつぽつと落ちてくる風景。
立夏「小夜、明日から冬休み入っちゃうし、今日はクリスマスイブなのにまだ絢斗くんと喧嘩してるの?」
寂しそうな顔で教室で窓の外を眺めていた小夜に、立夏が恐る恐るといった様子で後ろから声をかける。
小夜「…りっちゃん、恋愛って楽しいことばかりじゃないの?」
小夜は泣きそうな顔で笑い、立夏に振り向く。
立夏「小夜…」
小夜「ごめんね、こんなことりっちゃんが言われたって困るだけなのに!大丈夫、ちゃんと話してくる!」
心配そうな顔の立夏に小夜がにっと笑い、教室を出ていく。
○廊下
小夜(今日こそ絢斗とちゃんと話して、ずっと言えなかったごめんねも言って、前までの私たちに戻るんだ)
隣のクラスの前まで来た小夜は扉をスライドさせようとしたところで、中から人の話し声が聞こえて来てその手を止める。
女子生徒「…ねえ人来ちゃうんじゃない?もしかしたら彼女さんとか」
絢斗「はっ、来るわけないから平気だよ」
小夜(…絢斗?)
聞き覚えのある声に、小夜はそっと扉を数センチだけスライドさせると強張った顔で中を恐る恐る覗き込む。
中では、絢斗と向き合うようにして机の上に女子生徒が腰掛け、絢斗の首に腕を回している。
絢斗は机の上に両手をつくと、ずいっと顔を近づけて女子生徒とキスをした。
小夜「あや…と…?」
ガラッと音を立てて扉を開けた小夜は、信じられないものを見てしまったと目を見開きながら、ぽつりと名前を呟く。
振り向いた絢斗は、動じることなくふっと小さく笑う。
絢斗「タイミングわる」
小夜「どういうこと…?今、何をしてたの…?」
絢斗「あーいいよもう。めんどくせぇ。俺たちもう無理だな、別れよ」
絢斗はイラついたようにガシガシと頭をかいてから、小夜の横を通りすぎて教室を出ていこうとする。
小夜「ちょ…っと待ってよ!なんで…」
絢斗の腕を慌てて掴んだ小夜の手を、荒々しく絢斗が振り払う。
絢斗「小夜、おまえが悪いんだよ。俺がおまえを好きじゃなくなったのは、おまえのせい」
絢斗は冷たい視線で小夜を見下ろすと、両手をズボンのポケットに突っ込み呆然と立ち尽くしている小夜を置いて行ってしまう。
小夜(私が…いけなかったの?すぐに謝らなかったから。苦しくて悲しいすれ違いから逃げていたから。だから、浮気したの?私のことなんてどうでもよくなっちゃったの?)
絢斗の後ろ姿が見えなくなっても立ち尽くしたままだった小夜が、ずるずるとその場に崩れ落ちる。
小夜「ふ…っ、うう…っ」
両手で顔を覆いながら廊下の真ん中で小夜が静かに泣き崩れる。
○現在に戻る
文化祭当日。
小夜(まだ始まって一時間とかなのに、すごい大盛況…)
黒板側に設置した暗幕の後ろからポニーテール姿の小夜が教室の様子を覗く。
すでに満席の教室では、友達同士やカップルなどがそれぞれの机に座って飲み物やパンケーキを笑いながら食べている。
クラスメイト女子「華原さん!たしか今、調理担当だよね!?」
小夜「え?あ、うん。そうだけど…」
暗幕の裏でパンケーキの上にホイップクリームを乗せていた小夜に、クラスメイトの女子が汗だくになりながら入ってくると小夜の肩を両手で掴む。
クラスメイト女子「メイド役の子が一人体調崩して保健室に行っちゃったの!この忙しさだし、表の人手が足りなさすぎて困ってて…お願い!これ着て、接客して来て!私はちょっと早めに交代できないか次の子にお願いしてくるからその間だけ!」
小夜「え、ええ!?」
「お願いね!」と一方的に告げると、クラスメイトの女子は慌ただしく教室を出て行ってしまった。
仕方なくメイド服に着替えた小夜が表に出ていき、ぎこちない笑顔で接客をする。
クラスメイト男子「華原さーん。次のお客さん」
小夜「あ、はーい!」
カップル二人を窓側の二人掛け席に案内した小夜は、受付のクラスメイトの男子に呼ばれて振り返る。
小夜「…え」
絢斗「…小夜?」
そこにいたのは、驚いたように目を見開いている少し大人っぽくなった他校の制服姿の絢斗だった。

