○小夜の部屋、朝
–––ピピピピピ。ピピピピピ。ピピピピピ。(光の差し込む部屋でアラーム音の鳴る音)
小夜の手が7:15と表示されているスマホに手を伸ばし、鳴り続けているアラームを止める。
小夜「んー…」
ダボっとしたスウェット姿で髪の毛がボサボサな小夜は、寝ぼけながら自分の目をこすってベッドの上で体を起こす。
小夜「学校、行かないとな…」
ぽつりと独り言を呟きながら、壁一点を見つめながらぼんやりとしている表情。
ピロンとスマホが通知を鳴らしてメッセージが届いたことを知らせる。
小夜はスマホを手に取り、驚いた表情で「え」と呟く。
小夜の母「小夜ー!遅刻するよー!」
下から聞こえてきた母親の叫び声で小夜はハッと我に返って、スマホを片手にベッドからおりる。
○リビング
制服に着替えた小夜がドアノブを引いてリビングに入ると、シングルマザーである小夜の母がスーツ姿でちょうど慌ただしく出てきたところで鉢合わせる。
小夜母「朝ごはん、適当に何か食べて!夜も今日は帰りが遅いから、机に置いてあるお金でよろしくね」
小夜「ん。行ってらっしゃいー」
小夜の母は玄関に走って行き、小夜は手を振りながら机の上に置かれた千円札二枚にちらりと視線を向ける。
そして玄関でパンプスを履いている母親の後ろ姿を寂しそうに見つめる。
小夜(お父さんが浮気して出て行ったあの日から、お母さんはずっと忙しそう。それも全部、私がいるから…)
玄関の扉が閉まる音を聞いてから、小夜は片手に持っていたスマホに視線を移す。
小夜(私は決めたんだ。恋愛はもう絶対にしないって…)
スマホ画面には、海翔:家の前着いたよという新しい一件のメッセージが表示されている。
その前にも何件かメッセージ(“おはよ、小夜”“今日一緒に行かない?”“小夜の家迎えにいくね”)が溜まっているけど、それには既読をつけていない。
○小夜の家の前
海翔「小夜、おはよ」
小夜が家を出て鍵を閉めていると、家の前で待っていた海翔に後ろから話しかけられる。
小夜「…なんでいるんですか?」
海翔「あれ、メッセージ見てない?今日一緒に行きたいなって思って、迎えにきたんだよ」
にこっと爽やかな笑顔を向けられるけど、小夜は咄嗟に目を逸らしてしまう。
小夜(わかってる。これも全部、カップルコンテストのためだって)
小夜はぐっと唇を噛んでから、無言で歩き出す。
海翔「小夜?」
海翔の呼び止めてくる声に気づかないふりをしながら、小夜は悲痛な顔をして歩き続ける。
○教室
小夜「はあ…」
自席で片手で頬杖をつきながら、海翔とのトーク画面を見つめてため息をつく。
小夜(結局、迎えに来てくれたのにずっと先輩のこと無視して学校に来ちゃったな…。一言謝った方がいいかな)
スマホのキーボードで、“朝は嫌な態度を取ってごめ…”まで打つけど、タッタッタッと打ち込んだ文字を消してしまう。
小夜(私が謝る必要なんて、ないよね。どうせ期間限定の偽物カップルなんだから、どう思われようがどうだっていいじゃん)
そう考えながらも、じっとスマホの画面を見つめている小夜にガバッと廊下側の一番後ろの扉から入ってきた立夏が抱きついてくる。
立夏「小夜、おっはよー」
小夜「あ、りっちゃん…それに慎くんも。二人ともおはよう」
小夜に後ろから抱きついたままの立夏とその後ろにいる慎太郎に向かって、小夜がへらっと笑顔で返す。
立夏「小夜、なんか不機嫌?」
小夜「え?」
小夜に抱きついたまま立夏が、きょとんと首を傾げる。
小夜「そんなことないけど…」
立夏「そう?なんかイライラしてるように見えたけど」
立夏は小夜の頬にぷにぷにと人差し指で触れながら、小夜は驚いたように目を見開く。
小夜(イライラ…?それは一体、誰に何に対して…)
小夜「…ごめん!私、ちょっとトイレ!」
小夜はガバッと立ち上がり、逃げるように教室を飛び出す。
○廊下
小夜(…なんで?私、もしかしてずっとイライラしてたっていうの?)
小夜は戸惑いながら、足早に廊下を歩き進める。
真希「えー、海翔でもそんなこと言うんだねー」
小夜がハッと足を止めて顔を上げると、廊下の壁にもたれかかっている海翔に、真希が豪快に笑いながらバシバシと肩を叩いていた。
それに海翔が嫌そうに片手でしっしとやりながら、もう片方の手ではスマホを見ている。
小夜の前では決して見せない素の表情や仕草に、小夜の胸がツキンと小さく音を立てる。
小夜(まただ。また、この感じ…。二人が仲良さそうにしているのを見ていると、イライラが溜まっていくような感じがする…)
ふと、海翔が顔を上げようとしていることに気づいた小夜は、慌てて柱の後ろに背を向けて隠れる。
海翔が顔を上げた時には、小夜は寸前で隠れたところ。
海翔「いつまで笑ってんの?いい加減怒るよ」
小夜が柱から顔を覗かせると、海翔が真希の頭を引き寄せながら、顔も近づけていた。
今にもキスができそうなその距離感に、小夜は思わず飛び出していた。
小夜「…先輩!」
真希「…あれ、小夜ちゃん?」
小夜は両拳を握りしめながら、二人の前に立ちきっと顔を上げる。
その目は少しだけ潤んでいて、頬もほんのりと赤く染まっている。
真希が驚いたように振り向いてきて、海翔はスルッと手を下ろす。
そして、誰にも見えないくらい小さく笑った。
海翔「小夜?どうし…」
元のいつもの爽やかな笑顔を浮かべている海翔の腕を、小夜が掴むと歩き出す。
○空き教室
小夜(思わずこんなところまで連れてきちゃったけど…どうしよう?)
海翔に背を向けて腕を掴んだまま、誰もいない空き教室に入ったはいいもののどうやって話を切り出せばいいかわからなくて悩んでいる様子の小夜に、海翔が小さく笑う。
海翔「なんで俺のこと連れてきたの?」
小夜「え…っと、それは…」
小夜(私だってわかんないよ。気づいたら、先輩の腕を掴んでたんだから…)
海翔と向き合いながら、俯く小夜の頬にそっと片手を添えてきた海翔がそのまま小夜の顔を上に上げる。
驚いた顔の小夜が正面のシーン。
優しく微笑みながらそんな小夜を見つめる海翔が正面のシーン。
海翔「真希と楽しそうに話してたのが嫌だった?」
小夜「…え?」
○(小夜の回想)
さっきの海翔と真希が顔を近づけている場面を思い出す。
○現在に戻る
小夜(…私、先輩が真希さんと仲良さそうにしているのが嫌だった…?)
衝撃を受けている小夜の顔を見て、海翔が堪えきれないといったように吹き出す。
小夜「…なんで笑うんですか」
海翔「だって、あれわざとだし」
じとっと上目遣いで睨みつける小夜に、海翔は涙目になった目をこすりながら笑って続ける。
小夜「…はい?」
海翔「小夜がいること知ってて、わざと真希と仲良いフリしたんだよ」
ぽかーんと口を開けている小夜に、海翔がくすりと笑う。
○(海翔の回想)
真希「小夜ちゃんって、小動物みたいに小さくて可愛いかった!なんであんなに可愛いの!?」
海翔「小夜の可愛いさなんて、俺はとっくに知ってたけどね」
真希「えー、海翔でもそんなこと言うんだねー」
バシバシと肩を叩いてくる真希をあしらいながら、海翔はスマホでGPSアプリを開く。
小夜の位置が近くにいることに気づいた海翔は顔を上げて、柱の後ろに見える小夜のスカートに気づく。
○現在に戻る
海翔「だから、小夜が近くにいることに気づいてたんだよ。気づいてて、真希と仲良いフリをした」
小夜「なんでそんなこと…」
海翔「小夜に嫉妬してもらいたかったから。効果は抜群だったみたい?」
ニコッと首を傾げて微笑んでくる海翔に、小夜は声にならない声でパクパクと口を動かす。
海翔「そもそも、真希は隼斗…生徒会長やってる俺の友達ね。そいつの彼女だから、どうこうなるとか絶対にないし。だから小夜が偽彼女ってことも知ってるんだよ」
小夜「な…っ」
小夜(じゃあ私、ずっと考えなくていいことまで考えて、振り回されてただけってこと?)
小夜「わ…っ」
海翔はするっと小夜の腰に手を回すと、小夜の体を抱き寄せる。
今にもおでこがくっつきそうなその距離に、小夜は戸惑いながら顔を上げる。
海翔「俺、激重彼氏だからね。好きな子には俺のことをずっと考えててほしいし、嫉妬もしてほしいって思っちゃうんだ。俺がこんなことするの、小夜だけだよ?」
海翔はにこっと少し怖い笑顔で微笑む。
小夜(役だってわかってるけど…私、先輩になら振り回されてもいいなんて思っちゃってる。イライラしてたのも、嫉妬してたんだって思ったら納得がいく)
小夜は一度海翔から目を逸らしてから、もう一度海翔を見上げる。
その瞳には、海翔が少しだけ輝いて見える。
小夜(もしかして私、引き戻れない沼にハマってしまったのかもしれない…)
–––ピピピピピ。ピピピピピ。ピピピピピ。(光の差し込む部屋でアラーム音の鳴る音)
小夜の手が7:15と表示されているスマホに手を伸ばし、鳴り続けているアラームを止める。
小夜「んー…」
ダボっとしたスウェット姿で髪の毛がボサボサな小夜は、寝ぼけながら自分の目をこすってベッドの上で体を起こす。
小夜「学校、行かないとな…」
ぽつりと独り言を呟きながら、壁一点を見つめながらぼんやりとしている表情。
ピロンとスマホが通知を鳴らしてメッセージが届いたことを知らせる。
小夜はスマホを手に取り、驚いた表情で「え」と呟く。
小夜の母「小夜ー!遅刻するよー!」
下から聞こえてきた母親の叫び声で小夜はハッと我に返って、スマホを片手にベッドからおりる。
○リビング
制服に着替えた小夜がドアノブを引いてリビングに入ると、シングルマザーである小夜の母がスーツ姿でちょうど慌ただしく出てきたところで鉢合わせる。
小夜母「朝ごはん、適当に何か食べて!夜も今日は帰りが遅いから、机に置いてあるお金でよろしくね」
小夜「ん。行ってらっしゃいー」
小夜の母は玄関に走って行き、小夜は手を振りながら机の上に置かれた千円札二枚にちらりと視線を向ける。
そして玄関でパンプスを履いている母親の後ろ姿を寂しそうに見つめる。
小夜(お父さんが浮気して出て行ったあの日から、お母さんはずっと忙しそう。それも全部、私がいるから…)
玄関の扉が閉まる音を聞いてから、小夜は片手に持っていたスマホに視線を移す。
小夜(私は決めたんだ。恋愛はもう絶対にしないって…)
スマホ画面には、海翔:家の前着いたよという新しい一件のメッセージが表示されている。
その前にも何件かメッセージ(“おはよ、小夜”“今日一緒に行かない?”“小夜の家迎えにいくね”)が溜まっているけど、それには既読をつけていない。
○小夜の家の前
海翔「小夜、おはよ」
小夜が家を出て鍵を閉めていると、家の前で待っていた海翔に後ろから話しかけられる。
小夜「…なんでいるんですか?」
海翔「あれ、メッセージ見てない?今日一緒に行きたいなって思って、迎えにきたんだよ」
にこっと爽やかな笑顔を向けられるけど、小夜は咄嗟に目を逸らしてしまう。
小夜(わかってる。これも全部、カップルコンテストのためだって)
小夜はぐっと唇を噛んでから、無言で歩き出す。
海翔「小夜?」
海翔の呼び止めてくる声に気づかないふりをしながら、小夜は悲痛な顔をして歩き続ける。
○教室
小夜「はあ…」
自席で片手で頬杖をつきながら、海翔とのトーク画面を見つめてため息をつく。
小夜(結局、迎えに来てくれたのにずっと先輩のこと無視して学校に来ちゃったな…。一言謝った方がいいかな)
スマホのキーボードで、“朝は嫌な態度を取ってごめ…”まで打つけど、タッタッタッと打ち込んだ文字を消してしまう。
小夜(私が謝る必要なんて、ないよね。どうせ期間限定の偽物カップルなんだから、どう思われようがどうだっていいじゃん)
そう考えながらも、じっとスマホの画面を見つめている小夜にガバッと廊下側の一番後ろの扉から入ってきた立夏が抱きついてくる。
立夏「小夜、おっはよー」
小夜「あ、りっちゃん…それに慎くんも。二人ともおはよう」
小夜に後ろから抱きついたままの立夏とその後ろにいる慎太郎に向かって、小夜がへらっと笑顔で返す。
立夏「小夜、なんか不機嫌?」
小夜「え?」
小夜に抱きついたまま立夏が、きょとんと首を傾げる。
小夜「そんなことないけど…」
立夏「そう?なんかイライラしてるように見えたけど」
立夏は小夜の頬にぷにぷにと人差し指で触れながら、小夜は驚いたように目を見開く。
小夜(イライラ…?それは一体、誰に何に対して…)
小夜「…ごめん!私、ちょっとトイレ!」
小夜はガバッと立ち上がり、逃げるように教室を飛び出す。
○廊下
小夜(…なんで?私、もしかしてずっとイライラしてたっていうの?)
小夜は戸惑いながら、足早に廊下を歩き進める。
真希「えー、海翔でもそんなこと言うんだねー」
小夜がハッと足を止めて顔を上げると、廊下の壁にもたれかかっている海翔に、真希が豪快に笑いながらバシバシと肩を叩いていた。
それに海翔が嫌そうに片手でしっしとやりながら、もう片方の手ではスマホを見ている。
小夜の前では決して見せない素の表情や仕草に、小夜の胸がツキンと小さく音を立てる。
小夜(まただ。また、この感じ…。二人が仲良さそうにしているのを見ていると、イライラが溜まっていくような感じがする…)
ふと、海翔が顔を上げようとしていることに気づいた小夜は、慌てて柱の後ろに背を向けて隠れる。
海翔が顔を上げた時には、小夜は寸前で隠れたところ。
海翔「いつまで笑ってんの?いい加減怒るよ」
小夜が柱から顔を覗かせると、海翔が真希の頭を引き寄せながら、顔も近づけていた。
今にもキスができそうなその距離感に、小夜は思わず飛び出していた。
小夜「…先輩!」
真希「…あれ、小夜ちゃん?」
小夜は両拳を握りしめながら、二人の前に立ちきっと顔を上げる。
その目は少しだけ潤んでいて、頬もほんのりと赤く染まっている。
真希が驚いたように振り向いてきて、海翔はスルッと手を下ろす。
そして、誰にも見えないくらい小さく笑った。
海翔「小夜?どうし…」
元のいつもの爽やかな笑顔を浮かべている海翔の腕を、小夜が掴むと歩き出す。
○空き教室
小夜(思わずこんなところまで連れてきちゃったけど…どうしよう?)
海翔に背を向けて腕を掴んだまま、誰もいない空き教室に入ったはいいもののどうやって話を切り出せばいいかわからなくて悩んでいる様子の小夜に、海翔が小さく笑う。
海翔「なんで俺のこと連れてきたの?」
小夜「え…っと、それは…」
小夜(私だってわかんないよ。気づいたら、先輩の腕を掴んでたんだから…)
海翔と向き合いながら、俯く小夜の頬にそっと片手を添えてきた海翔がそのまま小夜の顔を上に上げる。
驚いた顔の小夜が正面のシーン。
優しく微笑みながらそんな小夜を見つめる海翔が正面のシーン。
海翔「真希と楽しそうに話してたのが嫌だった?」
小夜「…え?」
○(小夜の回想)
さっきの海翔と真希が顔を近づけている場面を思い出す。
○現在に戻る
小夜(…私、先輩が真希さんと仲良さそうにしているのが嫌だった…?)
衝撃を受けている小夜の顔を見て、海翔が堪えきれないといったように吹き出す。
小夜「…なんで笑うんですか」
海翔「だって、あれわざとだし」
じとっと上目遣いで睨みつける小夜に、海翔は涙目になった目をこすりながら笑って続ける。
小夜「…はい?」
海翔「小夜がいること知ってて、わざと真希と仲良いフリしたんだよ」
ぽかーんと口を開けている小夜に、海翔がくすりと笑う。
○(海翔の回想)
真希「小夜ちゃんって、小動物みたいに小さくて可愛いかった!なんであんなに可愛いの!?」
海翔「小夜の可愛いさなんて、俺はとっくに知ってたけどね」
真希「えー、海翔でもそんなこと言うんだねー」
バシバシと肩を叩いてくる真希をあしらいながら、海翔はスマホでGPSアプリを開く。
小夜の位置が近くにいることに気づいた海翔は顔を上げて、柱の後ろに見える小夜のスカートに気づく。
○現在に戻る
海翔「だから、小夜が近くにいることに気づいてたんだよ。気づいてて、真希と仲良いフリをした」
小夜「なんでそんなこと…」
海翔「小夜に嫉妬してもらいたかったから。効果は抜群だったみたい?」
ニコッと首を傾げて微笑んでくる海翔に、小夜は声にならない声でパクパクと口を動かす。
海翔「そもそも、真希は隼斗…生徒会長やってる俺の友達ね。そいつの彼女だから、どうこうなるとか絶対にないし。だから小夜が偽彼女ってことも知ってるんだよ」
小夜「な…っ」
小夜(じゃあ私、ずっと考えなくていいことまで考えて、振り回されてただけってこと?)
小夜「わ…っ」
海翔はするっと小夜の腰に手を回すと、小夜の体を抱き寄せる。
今にもおでこがくっつきそうなその距離に、小夜は戸惑いながら顔を上げる。
海翔「俺、激重彼氏だからね。好きな子には俺のことをずっと考えててほしいし、嫉妬もしてほしいって思っちゃうんだ。俺がこんなことするの、小夜だけだよ?」
海翔はにこっと少し怖い笑顔で微笑む。
小夜(役だってわかってるけど…私、先輩になら振り回されてもいいなんて思っちゃってる。イライラしてたのも、嫉妬してたんだって思ったら納得がいく)
小夜は一度海翔から目を逸らしてから、もう一度海翔を見上げる。
その瞳には、海翔が少しだけ輝いて見える。
小夜(もしかして私、引き戻れない沼にハマってしまったのかもしれない…)

