○(回想)前回の続き
海翔「俺の彼女になって」
小夜「な…っ」
にやりと笑いながら壁ドンをしている海翔の左横顔とギョッとした感じで口をぱくぱくとさせている小夜の右横顔。
海翔「じゃあ、今日からよろしくね」
小夜「え、あ、ちょっと待っ…」
慌てて呼び止める小夜に、海翔は壁から手を離すとひらひらと片手を振ってさっさといなくなってしまう。
その後ろ姿を、小夜は青ざめた顔で行き場の失った片手をそのままに見送る。
○現在、教室、次の日の朝
小夜「…どうしよう」
自席(廊下側の一番後ろの席)に座りながら、両肘をついて頭を抱える。
立夏「小夜ー!ちょっと、どういうこと!?」
教室に飛び込んで登校してきた立夏が、教室の扉に両手をついて身を乗り出してきた。
立夏「校内で小夜が海翔先輩の彼女になったって噂で持ちきりだよ!?」
小夜「ちょ…っ」
ざわっと教室内が騒がしくなり、一気に注目を浴びているのを感じる。
○廊下
小夜は慌てて立ち上がり立夏の口を片手で塞ぐと、そのまま廊下に連れ出す。
女子①「ほら、あれ…」
女子②「あんなの顔だけじゃんね…」
廊下に出ると、あちこちから女子の痛い視線や言葉を浴びる。
小夜は立夏の腕を引きながら廊下を歩いていく。
○廊下の隅っこ
階段近くまで来た廊下の隅っこで、キョロキョロと人気がないのを確認して塞いでいた立夏の口から手を離す。
立夏「どういうこと!?説明して!」
小夜「わ、わかってるよ…」
ずいっと身を乗り出して怒ったように捲し立てる立夏に、小夜は困ったように視線を逸らしながら両手でストップのポーズをする。
小夜「なんか成り行き?で彼女のフリをすることになっただけ。…するなんて了承してないのに」
立夏「…え?成り行きでなんでそんなことになったの?」
小夜「カップルコンテストに出るためだよ。私じゃなくたって、彼女のフリをしたい女子なんていくらでもいるだろうに…」
意味がわからないと首を傾げて頭にはてなマークを浮かべている立夏に、小夜はふぅと小さくため息をつく。
小夜(それに、恋愛は嫌いなのに…)
海翔「小夜はっけーん」
突然、ずしっと小夜の頭に片肘を乗せて爽やかな笑顔の海翔が後ろから話しかける。
小夜「げっ…出た」
海翔「彼氏にする反応じゃなくない?傷つくなあ」
顔をしかめる小夜に海翔は楽しそうに笑う。
海翔「小夜のこと借りていい?」
ぽかーんと驚いていた立夏に海翔が首を傾げて子犬のように可愛らしく尋ねる。
海翔の整った顔を間近で見た立夏はぽっと頬を赤くすると、コクコクと頷く。
小夜(ちょっと、りっちゃん!?)
小夜(そういえばりっちゃんがイケメン好きなこと忘れてた…!)
ぎょっとする小夜に海翔は立夏に向かって特大の笑顔で「ありがとう」と微笑むと、小夜を連れて歩き出す。
○空き教室
誰もいない空き教室まで連れてこられて、小夜は海翔に後ろから抱きつかれている形で座っている。
小夜「ちょっと…この座り方はなんですか?離してください!」
海翔「だーめ。小夜すぐ逃げようとするでしょ?」
じたばたと暴れる小夜だけど、ニコニコと笑っている海翔の手は一切緩まない。
小夜「てか、私自分の名前言いましたっけ?初対面なのに彼女役頼んできたのもどうしてなんですか?」
小夜は海翔の手を解こうとしながら、むっと怒ったまま振り向いて尋ねる。
海翔「昨日も言ったけど、タイミングよく現れて運命感じたからだよ。それに小夜は俺のこと好きじゃないでしょ?本気にならないところがいいなと思ったから」
小夜「はあ…?」
ニコニコと笑っている海翔に小夜はわけがわからないと眉をひそめる。
小夜(たしかに先輩に本気な女の子に彼女のフリを頼んだら、酷なだけだもんな…)
小夜(それに先輩の周りは本気の女の子しかいないだろうし)
海翔「だから、文化祭が終わるまで付き合ってくれないかな?賞金の10万円は小夜に全部あげるからさ」
小夜「10万円!?」
驚く小夜に海翔はきょとんと首を傾げている。
海翔「知らなかったの?優勝カップルには、10万円が支給されるんだって」
小夜「じゅ、10万…」
小夜(私の家庭は小学生の時にお父さんが浮気して出て行ってから、母子家庭だった)
父親が出ていく後ろ姿を小学生の小夜が寂しそうに見ている。
小夜(だからお母さんは朝も夜もずっと私のために働いてくれている)
小夜の頭に手を乗せ、優しく微笑む母親の顔が思い浮かぶ。
小夜(私の学校はバイトが禁止されていてお母さんの力になれないことが悔しかった)
小夜(だから、10万円が手に入ればお母さんが少しは楽をできるのではないだろうか…)
小夜「…本当に、優勝したら全額くれるんですよね?」
上目遣いに海翔を見上げると、海翔はふっと優しく笑う。
海翔「うん、約束する」
小夜「文化祭が終わったらこの関係も終わりですからね。私が先輩に本気になることは絶対にないので!」
海翔「わかってるよ。よろしくね、彼女さん?」
後ろから小夜のおなかに手を回したまま、小夜の肩に顎を乗せた海翔が首を傾げて笑いかける。
小夜はあまりの距離の近さにどきりとしてしまうが、慌てて頭を振って振り払う。
海翔「…やっと捕まえた」
微笑んだまま呟いた海翔の声は、赤くなった頬を押さえて必死に冷まそうとしている小夜には聞こえていない。
○教室、放課後
女子①「ねえ、あなたが華原小夜ちゃん?」
立夏とダンボールを一緒に切っていた小夜が顔を上げると、にこっと微笑みながら腕を組んで立っている女子生徒がいた。
その後ろには、同じく微笑んでいる女子生徒が二人。
小夜「そう、ですけど…」
小夜(上履きの色が赤だから一つ年上だ。誰だろ?)
上履きの色を確認してからもう一度上を向くと、女子生徒が微笑んだまま廊下を指さしてきた。
女子①「私たち、海翔と同じクラスなんだけどさ、華原さんのこと呼んでくるように頼まれたの。ついてきてくれる?」
小夜(なんの用だろう…。できればあまり関わりたくないけど彼女のフリをすると言った手前、ここで断るのも怪しまれるよなぁ…)
小夜「はあ、どこに行けばいいんですか?」
女子②「こっちこっち」
女子生徒の一人に手を取られ、立たされる。
○廊下
女子生徒達に押されるようにして廊下に出るが、海翔の姿は見当たらない。
小夜「えっと、先輩はどちらに?」
女子①「こっちだよ」
頰を引きつらせながら首を傾げる小夜に、女子生徒達はニコニコと笑いながら小夜を押して体育館裏まで連れてくる。
○体育館裏
小夜(なんでこんなところに呼び出してきたんだろう?)
怪訝な顔をしてキョロキョロと辺りを見渡しながら、小夜は前を歩く先輩達の後についていく。
小夜「あの、本当にこんなところに先輩がいるんですか?」
女子①「…ふっ、あははっ」
突然女子生徒達三人が笑い出し、小夜は意味がわからなくて戸惑う。
女子②「海翔があんたのことなんて呼ぶわけないでしょ」
女子③「自惚れるのもいい加減にしてくれる?」
小夜(…はめられた。この人たち、先輩の取り巻き軍の人達だ)
先輩達が猫を被っていたことを悟った小夜は踵を返して戻ろうとするが、その前に女子生徒の一人に突き飛ばされ、床に尻もちをつく。
小夜「何するんですか…!」
女子①「あんた、何勘違いしてんの?自称海翔の彼女とか痛いからやめてくれる?」
睨みつける小夜に、女子生徒の一人がしゃがみ込み小夜の襟首を乱暴に掴んで顔を近づける。
小夜「…勘違いなんてしてません」
小夜(勝手に彼女にされただけなのに、なんで私がこんな目に遭わないといけないの…!?)
女子①「…っ。あんたみたいなのが一番ウザいんだよ!」
イラついたようにバッと手を振り上げた女子生徒に、小夜はぎゅっと目を瞑る。
女子①「きゃ…っ」
だけど、聞こえてきた女子生徒の小さな悲鳴に恐る恐る目を開ける。
目の前には誰かの腕が後ろから伸びてきていて女子生徒の腕を強く掴んでいた。
振り向くと、海翔がいつもの爽やかな笑顔なんて微塵も感じさせない怒った表情で女子生徒の腕を掴んでいた。
海翔「…ねえ、何してんの?」
女子①「か、海翔…ねえ、嘘だよね?この子が彼女とか…。だって今まで誰とも付き合うことなんてなかったのに…」
女子生徒はへらっと笑いを向け、海翔ははあとため息をつきながら俯き、片手をおでこに添える。
海翔「そうだね、誤解させちゃったね」
女子①「…!やっぱり、その女の嘘…」
嬉しそうにぱっと笑顔になる女子生徒に、海翔がすっと顔を上げ小夜の肩を抱き寄せる。
海翔「この子、俺の命よりも大事な彼女だから、二度と手出そうとか思わないでくれる?女だろうと、容赦しねぇから」
女子①「…え」
ぽかーんと口を開けて固まっている女子生徒達を残して、海翔は驚いている小夜の腕を掴んで立ち上がりその場を去る。
○渡り廊下
小夜「あ、あの、先輩…!」
腕を引かれながら廊下を歩き、前を行く海翔に小夜が声を掛ける。
それにより、ぴたっと海翔の足が止まる。
小夜「すみません、私が間抜けだから嫌がらせと知らずにノコノコとついて行って…。あんな演技までさせてしまって」
小夜は俯きながら、申し訳なさそうに謝る。
海翔が振り向き、小夜の顎を指でくいっとあげる。
海翔「本心だよ。小夜のこと傷つけるやつがいるなら、俺は誰だって許さない」
小夜「…え」
真剣な顔の海翔に、小夜は一瞬ドキっとしてしまう。
小夜(って、先輩は学園一のチャラ男なんだから、勘違いするな!)
小夜「はは、またまた〜。だって私はただのニセカノジョであって…」
海翔「でも俺の彼女でしょ?小夜のことを守るのが俺の役目だよ」
にこっといつも通り爽やかな笑顔を浮かべる海翔に、小夜は本心かからかわれているのかわからず、困ったような顔で海翔を見返す。
小夜「そ、そういえば、どうして私があそこにいるってわかったんですか?」
気まずくて話題を逸らす小夜に、海翔はきょとんと首を傾げる。
海翔「小夜の居場所はどこだってわかるよ。GPSつけてるし」
小夜「…はい?」
海翔「あれ、昨日言わなかったっけ?スマホにGPSアプリ入れたよって」
小夜は慌ててポケットからスマホを取り出してホーム画面を確認すると、見慣れないアイコンがあることに気づく。
小夜「ええ!?いつの間に!?」
海翔「昨日空き教室にいる時に入れたんだよ。小夜がどこにいてもちゃんとわかるように。だって、俺の彼女でしょ?」
爽やかに笑う海翔に、小夜は軽く引きながら「嘘でしょ」と呟く。
小夜「激重彼氏設定ですか?先輩には似合わないと思うんですけど…」
海翔「ん?ああ、大丈夫」
何が大丈夫なのかわからないといった様子で、ニコニコと笑っている海翔に小夜は頭の上にはてなを浮かべながら眉をひそめる。
小夜(もしかして私、とんでもない人の彼女役を引き受けてしまったんじゃ…?)
海翔「俺の彼女になって」
小夜「な…っ」
にやりと笑いながら壁ドンをしている海翔の左横顔とギョッとした感じで口をぱくぱくとさせている小夜の右横顔。
海翔「じゃあ、今日からよろしくね」
小夜「え、あ、ちょっと待っ…」
慌てて呼び止める小夜に、海翔は壁から手を離すとひらひらと片手を振ってさっさといなくなってしまう。
その後ろ姿を、小夜は青ざめた顔で行き場の失った片手をそのままに見送る。
○現在、教室、次の日の朝
小夜「…どうしよう」
自席(廊下側の一番後ろの席)に座りながら、両肘をついて頭を抱える。
立夏「小夜ー!ちょっと、どういうこと!?」
教室に飛び込んで登校してきた立夏が、教室の扉に両手をついて身を乗り出してきた。
立夏「校内で小夜が海翔先輩の彼女になったって噂で持ちきりだよ!?」
小夜「ちょ…っ」
ざわっと教室内が騒がしくなり、一気に注目を浴びているのを感じる。
○廊下
小夜は慌てて立ち上がり立夏の口を片手で塞ぐと、そのまま廊下に連れ出す。
女子①「ほら、あれ…」
女子②「あんなの顔だけじゃんね…」
廊下に出ると、あちこちから女子の痛い視線や言葉を浴びる。
小夜は立夏の腕を引きながら廊下を歩いていく。
○廊下の隅っこ
階段近くまで来た廊下の隅っこで、キョロキョロと人気がないのを確認して塞いでいた立夏の口から手を離す。
立夏「どういうこと!?説明して!」
小夜「わ、わかってるよ…」
ずいっと身を乗り出して怒ったように捲し立てる立夏に、小夜は困ったように視線を逸らしながら両手でストップのポーズをする。
小夜「なんか成り行き?で彼女のフリをすることになっただけ。…するなんて了承してないのに」
立夏「…え?成り行きでなんでそんなことになったの?」
小夜「カップルコンテストに出るためだよ。私じゃなくたって、彼女のフリをしたい女子なんていくらでもいるだろうに…」
意味がわからないと首を傾げて頭にはてなマークを浮かべている立夏に、小夜はふぅと小さくため息をつく。
小夜(それに、恋愛は嫌いなのに…)
海翔「小夜はっけーん」
突然、ずしっと小夜の頭に片肘を乗せて爽やかな笑顔の海翔が後ろから話しかける。
小夜「げっ…出た」
海翔「彼氏にする反応じゃなくない?傷つくなあ」
顔をしかめる小夜に海翔は楽しそうに笑う。
海翔「小夜のこと借りていい?」
ぽかーんと驚いていた立夏に海翔が首を傾げて子犬のように可愛らしく尋ねる。
海翔の整った顔を間近で見た立夏はぽっと頬を赤くすると、コクコクと頷く。
小夜(ちょっと、りっちゃん!?)
小夜(そういえばりっちゃんがイケメン好きなこと忘れてた…!)
ぎょっとする小夜に海翔は立夏に向かって特大の笑顔で「ありがとう」と微笑むと、小夜を連れて歩き出す。
○空き教室
誰もいない空き教室まで連れてこられて、小夜は海翔に後ろから抱きつかれている形で座っている。
小夜「ちょっと…この座り方はなんですか?離してください!」
海翔「だーめ。小夜すぐ逃げようとするでしょ?」
じたばたと暴れる小夜だけど、ニコニコと笑っている海翔の手は一切緩まない。
小夜「てか、私自分の名前言いましたっけ?初対面なのに彼女役頼んできたのもどうしてなんですか?」
小夜は海翔の手を解こうとしながら、むっと怒ったまま振り向いて尋ねる。
海翔「昨日も言ったけど、タイミングよく現れて運命感じたからだよ。それに小夜は俺のこと好きじゃないでしょ?本気にならないところがいいなと思ったから」
小夜「はあ…?」
ニコニコと笑っている海翔に小夜はわけがわからないと眉をひそめる。
小夜(たしかに先輩に本気な女の子に彼女のフリを頼んだら、酷なだけだもんな…)
小夜(それに先輩の周りは本気の女の子しかいないだろうし)
海翔「だから、文化祭が終わるまで付き合ってくれないかな?賞金の10万円は小夜に全部あげるからさ」
小夜「10万円!?」
驚く小夜に海翔はきょとんと首を傾げている。
海翔「知らなかったの?優勝カップルには、10万円が支給されるんだって」
小夜「じゅ、10万…」
小夜(私の家庭は小学生の時にお父さんが浮気して出て行ってから、母子家庭だった)
父親が出ていく後ろ姿を小学生の小夜が寂しそうに見ている。
小夜(だからお母さんは朝も夜もずっと私のために働いてくれている)
小夜の頭に手を乗せ、優しく微笑む母親の顔が思い浮かぶ。
小夜(私の学校はバイトが禁止されていてお母さんの力になれないことが悔しかった)
小夜(だから、10万円が手に入ればお母さんが少しは楽をできるのではないだろうか…)
小夜「…本当に、優勝したら全額くれるんですよね?」
上目遣いに海翔を見上げると、海翔はふっと優しく笑う。
海翔「うん、約束する」
小夜「文化祭が終わったらこの関係も終わりですからね。私が先輩に本気になることは絶対にないので!」
海翔「わかってるよ。よろしくね、彼女さん?」
後ろから小夜のおなかに手を回したまま、小夜の肩に顎を乗せた海翔が首を傾げて笑いかける。
小夜はあまりの距離の近さにどきりとしてしまうが、慌てて頭を振って振り払う。
海翔「…やっと捕まえた」
微笑んだまま呟いた海翔の声は、赤くなった頬を押さえて必死に冷まそうとしている小夜には聞こえていない。
○教室、放課後
女子①「ねえ、あなたが華原小夜ちゃん?」
立夏とダンボールを一緒に切っていた小夜が顔を上げると、にこっと微笑みながら腕を組んで立っている女子生徒がいた。
その後ろには、同じく微笑んでいる女子生徒が二人。
小夜「そう、ですけど…」
小夜(上履きの色が赤だから一つ年上だ。誰だろ?)
上履きの色を確認してからもう一度上を向くと、女子生徒が微笑んだまま廊下を指さしてきた。
女子①「私たち、海翔と同じクラスなんだけどさ、華原さんのこと呼んでくるように頼まれたの。ついてきてくれる?」
小夜(なんの用だろう…。できればあまり関わりたくないけど彼女のフリをすると言った手前、ここで断るのも怪しまれるよなぁ…)
小夜「はあ、どこに行けばいいんですか?」
女子②「こっちこっち」
女子生徒の一人に手を取られ、立たされる。
○廊下
女子生徒達に押されるようにして廊下に出るが、海翔の姿は見当たらない。
小夜「えっと、先輩はどちらに?」
女子①「こっちだよ」
頰を引きつらせながら首を傾げる小夜に、女子生徒達はニコニコと笑いながら小夜を押して体育館裏まで連れてくる。
○体育館裏
小夜(なんでこんなところに呼び出してきたんだろう?)
怪訝な顔をしてキョロキョロと辺りを見渡しながら、小夜は前を歩く先輩達の後についていく。
小夜「あの、本当にこんなところに先輩がいるんですか?」
女子①「…ふっ、あははっ」
突然女子生徒達三人が笑い出し、小夜は意味がわからなくて戸惑う。
女子②「海翔があんたのことなんて呼ぶわけないでしょ」
女子③「自惚れるのもいい加減にしてくれる?」
小夜(…はめられた。この人たち、先輩の取り巻き軍の人達だ)
先輩達が猫を被っていたことを悟った小夜は踵を返して戻ろうとするが、その前に女子生徒の一人に突き飛ばされ、床に尻もちをつく。
小夜「何するんですか…!」
女子①「あんた、何勘違いしてんの?自称海翔の彼女とか痛いからやめてくれる?」
睨みつける小夜に、女子生徒の一人がしゃがみ込み小夜の襟首を乱暴に掴んで顔を近づける。
小夜「…勘違いなんてしてません」
小夜(勝手に彼女にされただけなのに、なんで私がこんな目に遭わないといけないの…!?)
女子①「…っ。あんたみたいなのが一番ウザいんだよ!」
イラついたようにバッと手を振り上げた女子生徒に、小夜はぎゅっと目を瞑る。
女子①「きゃ…っ」
だけど、聞こえてきた女子生徒の小さな悲鳴に恐る恐る目を開ける。
目の前には誰かの腕が後ろから伸びてきていて女子生徒の腕を強く掴んでいた。
振り向くと、海翔がいつもの爽やかな笑顔なんて微塵も感じさせない怒った表情で女子生徒の腕を掴んでいた。
海翔「…ねえ、何してんの?」
女子①「か、海翔…ねえ、嘘だよね?この子が彼女とか…。だって今まで誰とも付き合うことなんてなかったのに…」
女子生徒はへらっと笑いを向け、海翔ははあとため息をつきながら俯き、片手をおでこに添える。
海翔「そうだね、誤解させちゃったね」
女子①「…!やっぱり、その女の嘘…」
嬉しそうにぱっと笑顔になる女子生徒に、海翔がすっと顔を上げ小夜の肩を抱き寄せる。
海翔「この子、俺の命よりも大事な彼女だから、二度と手出そうとか思わないでくれる?女だろうと、容赦しねぇから」
女子①「…え」
ぽかーんと口を開けて固まっている女子生徒達を残して、海翔は驚いている小夜の腕を掴んで立ち上がりその場を去る。
○渡り廊下
小夜「あ、あの、先輩…!」
腕を引かれながら廊下を歩き、前を行く海翔に小夜が声を掛ける。
それにより、ぴたっと海翔の足が止まる。
小夜「すみません、私が間抜けだから嫌がらせと知らずにノコノコとついて行って…。あんな演技までさせてしまって」
小夜は俯きながら、申し訳なさそうに謝る。
海翔が振り向き、小夜の顎を指でくいっとあげる。
海翔「本心だよ。小夜のこと傷つけるやつがいるなら、俺は誰だって許さない」
小夜「…え」
真剣な顔の海翔に、小夜は一瞬ドキっとしてしまう。
小夜(って、先輩は学園一のチャラ男なんだから、勘違いするな!)
小夜「はは、またまた〜。だって私はただのニセカノジョであって…」
海翔「でも俺の彼女でしょ?小夜のことを守るのが俺の役目だよ」
にこっといつも通り爽やかな笑顔を浮かべる海翔に、小夜は本心かからかわれているのかわからず、困ったような顔で海翔を見返す。
小夜「そ、そういえば、どうして私があそこにいるってわかったんですか?」
気まずくて話題を逸らす小夜に、海翔はきょとんと首を傾げる。
海翔「小夜の居場所はどこだってわかるよ。GPSつけてるし」
小夜「…はい?」
海翔「あれ、昨日言わなかったっけ?スマホにGPSアプリ入れたよって」
小夜は慌ててポケットからスマホを取り出してホーム画面を確認すると、見慣れないアイコンがあることに気づく。
小夜「ええ!?いつの間に!?」
海翔「昨日空き教室にいる時に入れたんだよ。小夜がどこにいてもちゃんとわかるように。だって、俺の彼女でしょ?」
爽やかに笑う海翔に、小夜は軽く引きながら「嘘でしょ」と呟く。
小夜「激重彼氏設定ですか?先輩には似合わないと思うんですけど…」
海翔「ん?ああ、大丈夫」
何が大丈夫なのかわからないといった様子で、ニコニコと笑っている海翔に小夜は頭の上にはてなを浮かべながら眉をひそめる。
小夜(もしかして私、とんでもない人の彼女役を引き受けてしまったんじゃ…?)

