君の隣にいたいだけ

病室の中は、静かな空気が漂っていた。美咲は疲れ切っていたが、ずっと悠真の横に座り続け、手を握っていた。彼の顔は白く、冷たかった。動く気配もなく、ただただ眠り続けているだけ。
美咲は涙を拭いながらも、静かに悠真を見つめていた。彼が目を覚ますことを、どれだけ願っただろうか。どれだけ、彼と再び話ができる日が来ることを信じて待っただろうか。けれど、そんな願いも虚しく、悠真の体は日に日に弱っていった。
**「お願い…」**美咲はもう一度、そっと呟いた。声が震え、心の中で何度も彼を呼び続けた。
その瞬間、静かな病室の中に、わずかな変化が起きた。悠真の指が微かに動いた。それは本当にわずかな動きだったが、美咲の目にはそれがどれだけ奇跡的に感じられたことだろう。
美咲は驚き、慌てて悠真の顔を覗き込んだ。
「悠真…?」
その呼びかけに、悠真は目をほんの少し開け、ぼんやりとした視線を美咲に向けた。目が焦点を合わせるまでには時間がかかったが、やがて彼の目が美咲を見つめ、わずかに唇が動いた。
**「…美咲…?」**彼の声はかすれ、弱々しかった。それでも、その声が美咲の耳に届いた瞬間、彼女は全身が震えるような感覚に包まれた。
**「悠真…!」**美咲は思わず泣き崩れそうになり、彼の手をしっかりと握りしめた。涙が止まらない。彼が目を覚ました、ただそれだけで、心の中に溢れんばかりの喜びと希望が湧いてきた。
悠真はゆっくりと、再び目を開けた。まだ頭がぼんやりしているのか、周囲の景色を見つめながらも、どこか遠くを見つめているようだった。
**「美咲…どうして…?」**彼はその言葉を絞り出すように言った。声が震え、まだ体力が回復していないことがわかる。それでも、美咲は彼を見て、安心したように微笑んだ。
**「悠真、あなたが目を覚ました…本当に、よかった…」**美咲は涙を浮かべながら、かすかな笑みを浮かべた。心の中で何度も繰り返していた言葉が、やっと現実になったことに、胸がいっぱいになった。
**「俺…寝てたのか?」**悠真は少し不安そうな顔をしたが、美咲は優しく頷いた。
「うん、ずっと…ずっと、眠ってた。でも、今、目を覚ましたんだよ。」
悠真はゆっくりと美咲を見つめ、少しずつ意識がはっきりとしていくのが感じられた。美咲の顔を見つめる悠真の目に、少しずつその瞳の奥に温もりが戻ってきた。
**「ごめん、心配させたな…」**悠真は小さく微笑んだが、その笑顔にはまだ弱さが感じられた。しかし、美咲にはその笑顔が、どれほど大切で、輝いて見えたことだろう。
**「もう、心配しないで。あなたが無事に目を覚ました、それだけで十分だよ。」**美咲は泣きながらも、彼の手を強く握りしめ、温かい気持ちが溢れた。
悠真は少し考えるように目を閉じ、その後、ゆっくりと顔を向けた。
「美咲、俺…今、どれだけお前を愛してるか…わかるか?」
美咲はその言葉に驚き、目を見開いた。今の彼の声は、かすれていたけれど、その中に込められた想いは、どこまでも真摯で、優しくて、深いものだった。
**「わかるよ…私も、あなたをどれだけ愛してるか…」**美咲は涙を拭いながら、しっかりと彼の目を見つめた。
悠真は少し黙った後、ゆっくりと、かすかに笑って言った。
「ありがとう。美咲がいてくれて、俺は幸せだ。」
その言葉を聞いた瞬間、美咲は胸がいっぱいになった。彼の言葉は、彼がここにいる証、そして、まだ共に過ごす時間があることの証だった。
**「私も、幸せだよ。」**美咲は静かに微笑んだ。涙が止まらないけれど、その涙はもう、悲しみのものではなく、希望と愛の涙だった。