君の隣にいたいだけ

その日、病室の窓からは静かな夜景が広がっていた。外の風が少し肌寒く、病室のカーテンがほんのり揺れる。美咲と悠真は並んでソファに座り、手を握り合ったまま、少しの間無言で過ごしていた。
悠真は、美咲がこうして静かに隣に座っていることがどれだけ幸せなことか、改めて感じていた。だが、同時に胸の中には言葉にできない痛みが広がっていた。美咲の体調は、良くなったはずなのに、少しずつ悪化していて、そのことを彼女もわかっている。ただ、何も言わずに過ごしていることが、二人の間で一番自然なことだった。

美咲がゆっくりと振り返り、悠真の顔を見つめた。その瞳には、どこか遠くを見つめるような寂しさが漂っていた。

「悠真、私、あなたにどれだけ感謝してるか、言葉じゃ足りないくらい…」美咲はゆっくりと話し始めた。その声は少し震えていた。

悠真はその言葉に、何も答えることができず、ただ美咲の手を握る手に力を込めた。

「あなたと出会えて、そしてこうして一緒にいられる時間を持てたことが、私にとってどれだけ大切なことか、わからないくらい。」美咲は目を閉じると、深く息を吐いた。「でも…もうすぐ、終わりが来るのかなって、なんとなく感じる。」

その言葉に、悠真は胸が締め付けられるのを感じた。美咲がそんな風に感じていることを想像するだけで、心が痛くてたまらない。

「そんなこと、言わないで。」悠真は静かに答えた。「まだ、君と一緒にいたい。もっとたくさん、思い出を作りたいんだ。」

美咲はゆっくりと微笑み、そして小さく首を振った。「悠真…あなたにはまだ未来がある。私みたいに、こんな病気に囚われてるわけじゃない。あなたは、もっと素敵な人と出会って、幸せな時間を過ごすべきだと思う。」

悠真はその言葉に、強く手を握る。その手のひらから伝わる美咲の温もりが、どこか悲しく、でも愛おしく感じられた。

「そんなこと、絶対に嫌だ。」悠真は必死に言った。「君がいなくなるなんて、考えたくない。美咲、君と一緒にいたい。君がどこにいても、俺は君を忘れない。」

美咲は涙を浮かべながら、ほんの少しだけ笑った。「悠真、ありがとう。でも、あなたが私を忘れないことが、私にとって一番の幸せだよ。」

その言葉を聞いた瞬間、悠真の胸が苦しくなった。彼は何も言えず、ただ美咲の顔を見つめた。彼女の目には、今まで以上に深い悲しみと愛情が宿っているように感じられた。

「美咲…」悠真は小さく呟いた。

美咲はその言葉に反応することなく、静かに顔を上げた。その瞳に映る悠真の姿が、どこか儚く感じられ、彼女は思わずそっと目を閉じた。

「悠真…私が、あなたにとって一番で良かった。」美咲は静かな声で言った。「あなたと過ごした時間、どれだけ幸せだったか、今でも忘れない。」

その言葉に、悠真の目から自然に涙が溢れてきた。彼は美咲の顔に手を伸ばし、そっとその頬に触れる。

「美咲、お願いだよ…お願いだから、俺のことを置いていかないで。」悠真の声は震えていた。「君と一緒にいられる時間が、こんなにも短いって思うと、怖くてたまらないんだ。」

美咲はその言葉に、今度こそ涙を流し始めた。悠真の手が優しく彼女の頬を撫でると、美咲は少しだけ顔を上げ、静かに彼の唇を見つめた。

悠真もその視線を感じ取り、無意識に顔を近づけた。二人の距離が徐々に縮まり、ついに悠真は美咲の唇にそっとキスをした。そのキスは、悲しみと愛が入り混じった、深くて切ないもので、二人の心が一つに重なる瞬間だった。

キスが終わった後、二人はお互いを見つめ合い、言葉なくてもその心の中で何かが確かに通じ合った。

美咲は微笑みながら、もう一度小さな声で言った。

「悠真、ありがとう。あなたがいてくれて、私は本当に幸せだったよ。」

悠真は涙をこらえながら、ただ美咲を抱きしめた。「僕もだよ、美咲。君と一緒にいられて、本当に幸せだった。」

その夜、二人はお互いの温もりを感じながら、静かな時間を過ごした。病室の中には、もう言葉はなく、ただ二人だけの世界が広がっていた。