高校の校門をくぐるたび、美咲は息をひそめるような気持ちになった。
誰もが楽しそうに笑い、友達と話し、明るい声が校舎中に響いている。
でも、自分にはその場所が遠すぎて、まるで透明人間のようにそこにいてもいなくても同じだった。
「また、今日も一人か…」
彼女は小さく呟き、肩をすぼめながら教室へ向かった。
クラスメイトの視線が時折彼女に向けられるが、美咲は目をそらし続けた。
話しかけられても、笑いかけられても、そのすべてが重くて、怖かった。
医者から告げられた言葉――「余命半年」。
その重さが彼女の心を覆い、誰とも深く関わることをやめてしまったのだ。
そんな彼女を、唯一遠くから見守っている少年がいた。悠真。
「美咲、今日も元気?」
悠真は、ぎこちなく声をかけた。
美咲は一瞬だけ彼を見て、すぐに視線を戻した。
「うん…元気。」
それは嘘だった。
でも、本当のことを言うのが怖かった。
「俺は、君の隣にいたいだけなんだ」
悠真のその言葉は、まだ美咲の心の扉を開けないけれど、確かに小さな種を植えた。
春の風が教室の窓からそっと吹き込み、彼女の閉ざされた世界に、少しずつ光が差し始めていた――。


