…と、まぁ私が強引に遥翔様を引っ張り起こしまして、ただいま遥翔様の洗顔にお付き合い中。
顔をバシャバシャと洗う遥翔様をじーっと見ているわけにもいかないので、窓から見える庭の景色を見ていた。
窓からはイチョウの木からひらひらと落ちてくるイチョウの葉が見える。
風が、さぁ…っと吹くたびに毎回枯れ葉が1枚2枚と落ちてくるのに見とれていると、ぐいぐいとタオルを引っ張られた。
「なにぼーっとしてんだ。タオル。」
「あ、すみません…っ」
急いで持っていたタオルを渡すと、ふんっと不機嫌そうに顔を拭く。
これはご機嫌斜めだなぁ。 無理やり剥がしたのが悪いけど、学校に行くまでには機嫌直ってほしいな…
そんなことを思いながら遥翔様を見ていると、ポイッと使い終わったタオルを投げられた。
それを洗濯物を入れるかごの中に入れて、陽翔様のもとに戻る。
「いいか?」
「はい。待ってくださりありがとうございます。」
「ん。朝飯食べに行こ。」
「はい。」
食卓に向かっていると、廊下の向こうから誰か二人歩いてきた。
あの人達は、もしかして……
「げ、父上と母上…」
やっぱり…! 鷹正様に優理香様!こんなところで会えるなんて光栄だな。
遥翔様は少し嫌そうだけど。
私達は廊下の横に寄って屋敷のなかのトップのお二人が通り過ぎるのを待つ。
「遥翔と紅雷くん、おはよう。」
「ふたりとも、おはよう。」
「「おはようございます。」」
二人で頭を下げて挨拶をする。
そんな私たちの様子を見て、鷹正様が何か思い出したような動きをした。
「そうだ、紅雷くん。今朝の遥翔だが…」
「……っ」
「…はい。」
一瞬、遥翔様のつばを飲む音がした。
け、今朝の遥翔様の話…?
「遥翔は朝、寝起きが悪いしすごく口が悪いだろう?」
「……。」
「紅雷くんは今日、どのように起こしたかい?」
予想もしなかった質問だっ
どのように起こしたか……でしょ? あれを言っていいのかな…
「えぇと…」
「遥翔のことは気にせずに言ってみなさい。」
遥翔様のことを気にせずに言えと……!?
私はちらっと、一瞬だけ遥翔様の方を見てから口を開いた。
「私が、無理やり布団をはがしました…」
これは、事実。
無理やり剥がしたのは私なので、怒られるとしても私のほうが怒られるはず…。
「おや……それは、本当のことかい?」
「はい。私が無理やり起こしました。」
「ほぉ……」
鷹正様が無言で私を見つめてくる。まるで本当のことを言っているか見極めるように。
大丈夫、私が言ったのは本当のこと。
遥翔様は下を向いていて、優理香様は目をつむって動かずにいる。
この誰も喋らない沈黙の時間がとてつもなく怖い。
「ふっ、はははははっ!」
「…っ、うふふっ」
…え?
鷹正様と優理香様が二人で笑い始めた。
な、なんで急に笑い始めたんだろう…?おかしなことしたかな…
となりにいる遥翔様も鷹正様たちを見つめて、どうしたんだと言わんばかりにきょとんとしている。
「ははっ、すまない。まさか無理やり布団を剥がしたとは思わなくてな。はははっ」
「え、あ、すみません…」
「いや、謝らなくていい。むしろ、これからもそのスタイルでいいぞ。私はこういう子が入ってきてくれてうれしいよ。」
「私も、あなたのような方が来てくれて嬉しいわ。ふふっ」
「あ、ありがとうございます…?」
これは…褒められてるんだよ、ね……?たぶん。
「遥翔の布団を剥がすなんて初めてだなぁはははっ」
「そうねっ、失礼ではあるけれど、遥翔にはそっちのほうがいいわっ」
……とかなんとかいいながら鷹正様と優理香様は歩いていった。
「弥夏、お前……」
「す、すみません…」
「あんな正直に言わなくてもいいだろ。今回は運が良かったけど、最悪解雇されるところだったぞ?」
「そのとおりですね…、気をつけます。」
…、ほんっとうに遥翔様ごめんなさい!
本当のことを言うと私、一流ボディーガードとして働いてはいますけど、ウソをつくのがとてつもなく下手なんです…っ
これでは一流とは言えないのではって感じではあるけど…
本当にごめんなさい…っ!
「まじで…?なんでそれで一流になれたんだよ…」
「わからないです…」
「なんだっけ、護衛審査だっけな。それで一流とか二流とか言われるんだよな?」
「はい。それで一流と言われたので公の場ではそう言っていますが、自分ではそうは思わないですね。」
「オレも一流とは思わないな。一流っていうなら勉強もできたほうがいいのにな…」
…本人の目の前でグサッと刺さる一言を言いますね遥翔様ッ
「はは…朝ごはん、食べに行きましょう…?」
「うん。」
−−
食卓につくと昨日置いてあった大きなテーブルともう一つ、両端に細長いテーブルが置かれていた。
その両端のテーブルの上にはいろいろな食材が並んでいる。
「朝はバイキングなんですか?」
「うん。時々違うこともあるけど、大体はバイキング形式だな。」
そうなんだ…! 朝からこんなにたくさんの料理を作って、シェフの方たちすごいな。
「席は昨日のところと一緒のところだ。」
「わかりました。」
……そういえば、さっきから周りを見ていたけど、メイドさんたちがいない…?
「朝はみんな忙しいからな。7時から8時までに食べ終わればいいことになっている。」
「そうなんですね…!」
そっか、朝に終わらせておく仕事とか色々あるもんね。
私達は学校があるから早めに食べないといけないけど、早い時間に予定のない方たちは7時に食べるというルールはないんだ。
平日は時間内であれば自由、と。休日はまた違うのかな…?
考えていると遥翔様がおぼんを取ろうとしていた。
「あ、遥翔様、お持ちします…っ」
「いや、大丈夫だ。弥夏は自分のとれ。オレの手伝ってると弥夏の食べる時間が減る。」
「いいのですか…?ありがとうございます。困ったらいつでも呼んでください。」
「あぁ。」
遥翔様はそう言って、自分の朝ごはんを取りに行った。
普通はバイキングと言えば手伝うのが普通なのに、遥翔様は私の食べる時間を考えてくれた…? ありがたい…!
私は遥翔様に感謝しながら自分の朝ごはんを取りに行く。
といっても朝はあんまり食べないから少ないんだけどね。
私が取ってきたのは白ご飯少量とスクランブルエッグと野菜ジュース。
席に戻ると遥翔様はまだ戻ってきていなかった。
まだ戻ってきてらっしゃらない、…朝結構食べる人なのかな?
そんなことを思いながら私は手を合わせてから食べ始めた。
三分の二くらいを食べ終わったくらいに遥翔様が席に戻ってきた。
「弥夏、食べるの早いな?」
「もともとの量が少ないのでそう思うのかもしれないですね。」
「もともとの量…?朝、そんなに少なくていいのか?」
「はい。朝食べすぎたら授業中に眠くなったりするので…」
「なるほど…?」
少し不思議そうにしながら遥翔様も食べ始めた。
遥翔様は朝はパン派らしい。パンとジャムがお皿に乗っている。
そして、すっごく食べるのが早い。
先に食べていた私が終わる頃に遥翔様は半分以上食べ終わっていた。
「遥翔様、そんなに早く食べたら体に悪いのでは…」
「ん? あ、もともとなんだ。ちゃんと噛んでるから大丈夫だろ。」
そういう問題ではない気がするけど、…遥翔様が言うなら大丈夫なのかな……?
「ごちそうさまでした。」
食べ終わって食器をかたして、二人で部屋に戻る。
「それでは、7時40分に玄関でお待ちしていますね。」
「うん。」
「それでは。」
遥翔様が部屋に入ったのを見届けて、私も部屋に入る。
今の時刻は7時30分。
城光中学校の新しい制服は昨日試しに着たし、学校の準備は……やってない?!
…そういえば教科書はもらってるけど時間割とか全然わからないな……
どこにも書いてなくて後回しにしよ〜ってした昨日の自分がバカだ…
コンコンコンッ
…? 遥翔様の部屋の方から聞こえた…?
「はい。なんでしょうか?」
「これ、今日の時間割。」
ドアがほんの少しだけ開いて1枚の紙が差し出された。
「え!?ありがとうございます!!ちょうどわからなくて困っていたので助かります…!」
遥翔様、すごい…! ずっと私の考えていることがわかるわけでもないのに、ちょうど困っているときに助けてくださるとは…!尊敬だ…っ
遥翔様からもらった時間割(いるものも詳細に書かれていてすごかった)を見て時間割を揃え、集合時間の3分前に玄関にいることができた。
よかった、遥翔様はまだ来てない。
集合時間ピッタリの時間になり、遥翔様が来た。
「すまん、待たせた。」
「いえ、だいじょうぶ…です……」
遥翔様の声に顔を向けると、城光中学校の制服を着た遥翔様がいた。
そりゃ、今から学校に行くから制服を着ているのは当たり前なんだけど…
「制服、すっごくお似合いですね…!」
城光中学校の制服は、黒ベースのチェック柄が入った、銀色のボタンが付いているジャケットに黒のズボンかスカート。いい方といえばいい方な制服。
服のセンスが全く無い私にはいいのか悪いのかわからないけど、多分いい方。
1年半以上は使っているはずなのに、遥翔様の制服にはシワ一つない。
毎日だれかがアイロンとかかけてるのかな、そのくらいピシッとしてる。
そして何よりスタイルがいい。見てて飽きない気がする…
「制服…?ありがとう。弥夏も似合ってるぞ。」
「えっ? ありがとうございます…!」
さらっと相手のこと褒めるのすごいなぁ…
でも、それ以上に遥翔様が似合いすぎてるんだよね。
中学校の制服、こんなに似合う人いるんだって思うもん。
「じゃ、いってきます。」
「いってきます…!」
誰かいるわけではなかったけど、私もいってきますと言ってから出発した。
転校して初めての登校!何も起こりませんように…!

