テスト用紙と筆記用具を持って、遥翔様の部屋に移動する。
「で、どこがわからない?」
「えと、国語と数学は自力でできたのですが、英語が全くわからなくて…」
私はそう言いながら、英語のテストを見せる。
「ここの3問を間違えているのですが、単語の日本語訳…?がわからなくて困ってます…」
「なるほど。 なら、4番からやっていこう。」
「……? 4番から、ですか?」
私が間違えてる問題は3、4、5番なのに、なんで3番を飛ばして4番からするんだろう…?
「そう、4番から。 だって、見た感じだと、4番を間違えた理由は単語がわからないからだろ? このbeautifulとかそのままだもんな。」
「そ、そうですね…」
「単語の意味さえわかれば解ける。 まずは簡単なものから終わらせようっていうオレなりのやり方だ。」
「なるほど、簡単なものから終わらせる…!覚えておきます!」
たしかに、簡単なものを先に終わらせたら難しい問題にあとから時間を書けられるし、効率もアップしそう…!
遥翔様が仕事終わらせるの早いのもこういうところからなのかな…? 作業を効率化してしてるの、すごいな。
「遥翔様すごいですね。私は自分のやり方など考えたことありませんでした。」
「すごい、か…?ありがとう。 弥夏もこれをきっかけに自分のやり方、見つけられるといいな。」
「はいっ! あ、なら、遥翔様が今教えてくれたやり方を使ってみてもよろしいですか…?」
「もちろん。 人のやり方を真似るのも一つの方法だしな。」
「ありがとうございます…!」
「うん。 …あ、こんなとこにあったのか。」
遥翔様は何か見つかったようで、手に何か四角いものを持ってこっちに来た。
遥翔様はさっきから、私がいま使っている机とは別の机の横にある棚の中をゴソゴソとなにかを探していた。
探し物、見つかったのかな? 何を探してたんだろう…?
遥翔様は、見つけてきたなにか四角い平たい物を私の座っているところの前に置いた。
「…? 遥翔様、これ、なんですか?」
「これは電子辞書って言って、英単語の意味、言葉の意味、その他色々調べられる便利器具。使いやすいし重宝してる。」
「そうなんですね。コンパクトで持ち運びもしやすそうです…!」
電子辞書、名前を初めて聞くわけではないけど、実際に見るのは初めてかも。
こんな感じなんだ。 パソコンの小さいバージョンみたいな感じなのかな…?
じーっと電子辞書を観察してると、遥翔様が電子辞書を開いた。
わっ、本当にパソコンみたい…!中にキーボードっぽいものがあるところも!
「弥夏、今から説明するから見て聞いてやって覚えてな。今から調べるのは英単語の意味だから、【英和・和英辞典】と書いてあるところを矢印キーを移動させて押す。そしたら調べられる。弥夏、やってみて。」
「はい。」
き、緊張する!!
そりゃ、遥翔様と初めてあったときよりは全然マシだけど…
少しいい方悪くかるかも知れないけど、遥翔様の私物を触らせていただくんだよ?!しかも重宝してるっていってたし。壊したらどうなることやら…
私、女子だけど、ボディーガードっていう仕事をしているせいか、握力が男子よりもすごいんだよねぇ…
がんばったら、片腕だけで50kgとかいけるんじゃないかってくらい強いから。
たしか、女性の平均は30kgくらいだったはずだから……そうとう強いってことになるのかな、…あはは。
そんな事を考えながら、まだ、ボタン一つを押すのにまごついている。
電子機器を使うことにあまり慣れていないこともあるけどね。
そんな私の行動を読んだからか、遥翔様が私の真向かいから横に移動してきた。
「えっとな、まずここの検索のところを方向キーで選択するだろ。」
「は、はい…」
遥翔様が、ぐっと近よって教えてくださる。
なるほどなるほど……じゃなくてっ!!
距離が……っ、ちかい!!!
さっき横に来た時は何も思わなかったけど、今は肩と肩がくっつきそうなくらい近くにいる。
急に距離が近くなったからか、それとも遥翔様の顔が良いからか、心臓がドキドキいってる。
せっかく教えてもらっているんだから、集中しないと…っ
「ここをこうして。今回だったら…」
遥翔様はずっと丁寧に教えてくださっている。
けど、私はその話が全部、右から左に通り過ぎて行っちゃってる。
私って、こんなに男子に耐性持ってなかったっけ…
たしかに、今までやってきて、ずっと女性の方たちを守ってきたから、同年代の男子と話す機会なんてほんっとうに久しぶりだけど…
でも、前に話した時はそんな事なかったはずなんだけどなぁ…
「おーい…っ?」
主様を守るために大柄な男の人と対面でぶつかる__、なんてことはあったけど、それとこれとはちょっとどころか全然違う、よね。
「弥夏ー?」
てことは、本当に私に耐性がないだけなのかも。そうだとしたら、これから遥翔様や他の方たちを守っていくのに大きなハンデになりそう……
男子耐性、つけないとだっ
「弥夏!!」
「はいっ! あ……っ!」
名前を呼ばれ我に返ると、遥翔様が少し怒ったような様子でこちらを見ていた。
……っ、しまった…
遥翔様が説明してくださっていたのに全然聞いていなかった……
どうしよう、遥翔様怒ってるよね…
今日入ったばっかりになのに、その日に解雇なんて嫌だな……
私が聞いていなかったが悪いんだけどね。
自分の失態にショックを受ける。
遥翔様は怒っているはず……怒鳴るのだけはやめてほしいな、なんて。
そう思いながら、そろそろと遥翔様の顔色をうかがう。
遥翔様はなにか考えるような顔をしている。
嫌な予感しかしない…。 大体こういうときは、嫌な方向に行くことが多い。
今回だって、きっと…
「弥夏、大丈夫か? ボーっとしてるけど。」
……あれ? 心配の、言葉…?
「はい、大丈夫です。…その、すみま」
「今日は初めてのことばかりで疲れたか…?」
私の言葉を遮るように、問いかけてくる。
こ、怖い……
こう、優しくされた後にガツンと言われるかも、とか、そういうことが頭の中をぐるぐるしている。
その優しく気遣うような言葉が、今は、怖くて、苦しい。
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていました、すみません……。」
「そうか、大丈夫なら良い。」
そう言って、遥翔様はもう一度、説明をしなおしてくださった。
あれ、あれ…? もしかして、いつものパターンではない……?
その後も、遥翔様は何事もなかったかのように説明して、テスト直しを手伝ってくださっている。
こんなこと、あるんだ…? なにも言われないなんてこと。
こういうことがあったら、今までなら、絶対なにか言われてきたのに、何も言わないってことあるんだ…
どんどん問題のわからなかったところもわかっていき、最後の問題も終わってしまった。
結局、何も言われずに最後の問題まで全部終わった……
いい、のかな、大丈夫……?
「今日の分はこれで終わり。おつかれさま。」
「あ、ありがとうございました…っ」
遥翔様が立ち上がり、電子辞書を片付けにいく。
私も立ち上がり、私の部屋につながる扉に手をかける。
「そうだ、弥夏。」
「はい、なんでしょう?」
名前を呼ばれ、後ろにふりむく。
ドッ
……へっ?
振り向くと、遥翔様の顔が目の前に。
顔のすぐ横には、鍛えているのか、がっしりとした腕が逃さないとでもいうように置かれていた。
「あれぇ、一流ボディーガードなのに、もしかしてオレからの攻撃に避けれてないの…?」
「あ、えっ…?」
遥翔様に煽るように痛いところを聞かれる。
……え? 今のこの状況に頭の処理が追いつかない。
私、今、遥翔様に壁ドン、されてる…? な、なんで…?
「実はさ、オレ。ある能力持ってるんだよね。なにかわかる?」
んん……? 遥翔様、キャラ変わってる…? こんな感じの雰囲気だったっけ?
ていうか、能力?ってなに…? プロフィールにはそんな情報一つも載ってなかったけど…
「今までのオレは表向きの性格で、本性はこっち。 プロフィールなんて、全部の情報が乗ってるとは限らないと思うけど…?」
で、でも、ここ現実、だよ? 能力なんて、そんなの…
「持ってるはずがない…?」
私が思っていた言葉を、遥翔様がいった。
え? なんで私の考えてることがわかったの……?
んん…? 考えてることが、わかる……?
てことは、遥翔様の言う能力って、
「そう。オレの能力、人の考えていることが分かる能力だ__。」

