勉強会のご褒美は。




「……弥夏、これは正直言ってやばい。」

「は、はい…」



採点が終わり、3枚のテストが机の上に置かれている。

それを、遥翔様がガチでヤバいという目で見ている。



「これは中学1年生の範囲だが……中2のお前はできていないな?」

「はい…」

「オレは、もし、このテストが満点だったら、強制的に勉強はさせなくていいと思っていた。が、……」



__またもや、嫌な予感がしてきた

満点だったらってことは、満点じゃなければ、……

もう、予想がつく__。



「満点どころか基礎からできていなさそう。ということで、今日から勉強会。毎日2時間、絶対な。」

「……えっ」



勉強を半強制的にやらされるんだろうとは思ってたけど……、えぇーと、2時間……ですか…

1時間でも十分すぎると思いますけど、本当に2時間で本当に合ってます……っ?



「なんだ、嫌そうな顔して。3時間にするか?」

「え!?いえいえいえいえっ、2時間で大丈夫です!」

「そ、そうか。 なら、学校から帰ってきてから1時間と風呂上がってから1時間の計2時間でよろしく。」

「はい、わかりました。よろしくお願いします…」



うん…勢いで2時間するのオッケーしちゃったけど、2時間って長いよぉ…っ!

毎日1時間もやってないのに、2時間なんてできるかなぁ…

でも、続けて2時間するよりはマシか…



「そういや、弥夏はいつも何時間勉強してるんだ?」

「私ですか?えーと、1日に30分……とか。 もしかしたらもっと少ないかも……くらいです。」

「1日に30分?! なるほど、だからこんなにひどいのか……」



そ、そのとおりです……

でもですね……この1時間でそれだけヤバいやらひどいやら言われると私のメンタルが持たないです……ッ

まぁ……やってなかった私も悪いんだけどね…



「そんな状態から毎日2時間、急に変更するのはきついか…」



おぉ…っ? まさか、1時間に変更してくれたり……?



「そらなら……そうだな、2時間やり終えたらご褒美、とか。オレの作ったテスト合格できたらご褒美、とか。 そんな感じのご褒美制とかだとやりやすい…?」

「ご褒美制、ですか…?」

「そう、ご褒美制。弥夏のやりたいこととか、やってほしいことをご褒美にして、そのために勉強をがんばる、みたいな感じ。」

「な、なるほど…!」



たしかに、ご褒美制なら、終わったあとの楽しみのために頑張れるかもしれない……?

まず勉強をあんまりしてないからどうなるかはわからないけど…



「ご褒美制でお願いしますっ」

「わかった。 さっそく今日からやるんだけど、ご褒美は何が良い?」

「ええと、そうですねぇ……何が良いんでしょう…」



うーん……私のやりたいこと、だよね?

何かあるかなぁ、……あっ!



「私のトレーニングを一緒にしてもらう、とかどうですか?」

「トレーニング……? いいけど、具体的に何するんだ?」

「んー、日によって違いますけど、ランニングとスクワット、それとプランクは欠かさずやってますね。」

「なるほど…。それならオレもできるはず。じゃあご褒美は弥夏のトレーニングに付き合うってことで。」

「はいっ、ありがとうございます…!」



遥翔様、本当にやってくださるんだ…!

朝、いっつも一人で寂しかったからうれしいっ!

私も勉強がんばらないと…!



「当たり前だけど、ご褒美にちゃんと付き合うかわりに、弥夏も勉強ちゃんとやれよ?」

「もちろんです!成績伸ばせるようがんばりますっ」

「ん、その意気だ。」



遥翔様がにこっと笑う、 その時…


グ、ググゥー


少し遠慮気味、ではあるけども正直なお腹の音が聞こえてきた。



「ん…?」

「え…、あっ、これ私の音ですかね?!すみません…!」

「え、いや、……」



まさかお腹の音が鳴るなんて… しかも遥翔様の目の前で…

なんということ……っ!

勉強したからお腹空いたのかなぁ…

そんなに空いてないような気もするけど……


「ち、がう……弥夏…」


恥ずかしさに暮れていると、遥翔様の少し震えている声が聞こえた。

顔に手をやり、肩を震わせている。

遥翔様…?どうしたんだろう。

も、もしかして、私のこと笑ってる…?!



「な……っ 笑わな…「すまない、今のはオレの音、だ……。」

「えっ……?」

「情けない姿を見せてすまない…」



オレの音……? あっ、今の音が遥翔様からだったってこと?!

なんか、意外 真面目そうな反面、お腹は正直なんだなぁ…

みっともない、というか、意外な一面って感じでちょっとかわいい、かも。



「情けないなんて、そんなことないですよ。 もう夕食の時間ですもんね、1階に降りましょっ」



腕時計を見ると、針は5時55分を指している。

もうこんな時間、お腹もすくよねっ



「……そうだな、行こう。」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



遥翔様の部屋を出て、食卓に向かう。


場所によって、家のルールなどが全然違うんだ。

特に、食事なんかは結構違かったりする。

今まで私がやってきたところでは、食事は1人で食べたり、外で買ったり。 「みんなで食べる」ということはしたことがなかった。

でも、ここは使用人さん含め、全員で食べるらしい。

だから、楽しみだし、わくわくするっ



「そういえば、弥夏。今日挨拶するんだよな?」

「……? 挨拶、ですか?」



挨拶するんだよな? と言われても、挨拶……って、誰に……?

遥翔様とメイド長にはしたし…



「あ、言ってなかったか。 ここはな、新人が入ってきたら、食事の前に皆の前で挨拶するのが恒例なんだ。」

「そうなんですね!教えてくれてありがとうございますっ」


ここでは皆の前に出て挨拶するんだ…! そんな丁重に迎えてくださるなんてうれしいな。

皆の前で挨拶とかやったことないから、できるか心配だなぁ…

名前と役割言えばいいかな? あ、意気込みとかも言っといたほうがいい…?

わかんないよぉ……

もう、その場のノリと雰囲気で行く…?



「弥夏。その場のノリで行くとか、絶対失敗するからやめとけよ…?」

「え?! も、もちろんですよ!」



私が考えてること見透かされてた?! 私ってそんな感じに見えるのかな?


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


階段を降りて1階につくと、中庭に行くときは閉まっていた食卓の扉が開いていた。

扉の前には数人のメイドさんたちが立っている。


遥翔様が食卓の扉の前にいくと、メイドさんたちが一斉に頭を下げた。



「遥翔様、こちらへどうぞ。」



そのうちの一人が前に出て、遥翔様を席に案内している。

す、すごいビシッと揃ってる…! さすが西郷家のメイドさんたち…

えぇと、私はどうすればいいんだろう? 何も言われていないけど……



「弥夏さんもこちらへ。」

「あ、ありがとうございます。」


少しキョロキョロしていると、近くにいたメイドさんが案内してくれた。

遥翔様の席は入ってきたところから近いところ。

私の席は遥翔様の隣に用意されていた。

案内してくれたメイドさんにお礼を言って、用意された席に座る。



「お隣失礼します…」



ここの食卓に使われている机は、横長で木材で作られている。

偉い人たちのお食事会とかで使われていそうな、あの、長くてでっかいやつ。


席順は扉側から見て、扉に近い方の左側の席が、鷹正様、優理香様。 その反対側、右側の席に遥翔様が座っていらっしゃる。

その奥は全部、メイドさんや執事さん、その他使用人さんたちの席になっている。


私の目の前に鷹正様と優理香様が座っていらっしゃるけど、挨拶した方が良いのかな……?

普通はするんだろうけど、もうメイドさんたちも座っているしなぁ……


どうするか考えていると、鷹正様が口を開いた。



「今日は、食べ始める前に今日入った新人くんの紹介をしたい。 紅雷くん、前へ。」

「はい。」



ついに呼ばれちゃったよぉ…しかも、鷹正様に直接!うわあぁぁ……っ

他のこと考えていたら自己紹介タイムになっちゃった…

どうしよ、文章1つも考えてない……っ!


心のなかであわあわしながらも、体は平常心を装って、ここの家にいる人たち全員が食卓のいる前に堂々と出る。



「………。」



何を言うか……の前に緊張しすぎて声が出ないかもしれないッ

というか出ないッ!

頭が真っ白でどうすればいいかわからないし……


助けを求めるように遥翔様をちらっと見る。

もちろん、助けてくれる期待なんてしてないけど……。


『が ん ば れ 。』

「…!」


かすかだけど、遥翔様の口がそう動いた。


遥翔様が、がんばれと言ってくださった…?!

その応援してくださったその嬉しさと驚きの力で、私は即興(半分ノリ)で考えた自己紹介を始めた。



「はじめまして。今日から入りました、遥翔様の専属メイド兼ボディーガードの紅雷弥夏と申します。……皆様のお役に立てるよう、精一杯がんばります。よろしくお願いします。」



パチパチパチパチ


い、言えたぁ…! よかったぁ…っ

一礼して、席に戻る。



「紅雷くん、これからよろしく。皆、紅雷くんとも仲良くやってくれ。 では、いただくとしよう。……いただきます。」

「「いただきますっ」」



鷹正様の言った後、たくさんの声があとに続く。

みんなでいただきますなんて何年ぶりだろうと思いながら、私も一緒にした。


今日の夕食は蓋がしてあって見えないけど、グラタン皿なので、多分グラタン。

蓋を開けると、ほわぁっと効果音がつくくらいのグラタンの良いにおいに包まれた。



「わ…!いい匂い…!」

「だろ? このグラタンはシェフの一番の得意料理なんだ。オレの一番好きなメニューでもある。味も格別だぞ。」

「おぉ…っ!そうなんですね……!」



なんとっ、シェフの得意料理だって…! 美味しいに決まってるよ!!

ワクワクしながらグラタンを口にする

すると、グラタンの味がぶわぁっ と口の中に広がった。



「ん〜!おいしいっ…!」



す、すごい…! 言葉にならないくらい、美味しい…!

さすがはシェフの一番の得意料理!



「遥翔様、グラタンすごく美味しいですね…! こんなに美味しいのは初めて食べました…!」

「だろっ? オレも、これ以上美味しいグラタンは食べたことない。」



そう言って、グラタンを口に入れてにこにこしている。

遥翔様は本当にこのグラタンが好きなようで、ずっとパクパクと口に入れては幸せそうに食べていた。



「いつもならデザートも付いてくるんだけど、今日はシェフがグラタン作ることに頑張りすぎて作るのを忘れたらしい。」

「そうなんですねっ! このグラタンを作るためにそんなに…! そのがんばりが味から伝わってくる気がします…!」

「ははっ、そうだな。」



遥翔様は笑いながら、パクっと食べてにこにこ。

すごく、にこにこおいしそうにしながら食べるなぁ… 見ててこっちまで幸せな気分になる!

冷えないうちに私も食べよっ


グラタンの入っている、このグラタン皿、思ってたよりも容量が多くて、おかわりもせずにお腹いっぱいになった。

他のメイドさんたちを見ると、食べ終わった人から洗い場にお皿を持っていき、自分の仕事に戻っている。

どうやら、ごちそうさまは一緒にしないらしい。

みんな忙しそうだもんね。


私は食べ終わったけど、遥翔様はまだ食べ終わっていないから……、お皿片付けて、遥翔様のこと待っていよう。

お皿、どこに持っていくんだろう?

キョロキョロしていると、遥翔様が隣から声をかけてくださった。



「お皿はあそこ、入口のすぐ隣りにある扉の向こう側に置くところがある。」

「なるほどっ、ありがとうございます。」



教えてもらったところに、「ごちそうさまでした!」とお皿を返して、また席まで戻る。


席に座ると遥翔様が不思議そうにこちらを見てきた。



「どうしましたか…?」

「いや、なんで戻ってきたんだろうと……」

「食べ終わるのを待ったほうがいいかなと思ったので。」

「そうか、食事の時はまたなくても良いけどな。オレ、食べるの遅いから。」

「そうですか? でも、二人のほうが楽しいと私は思いますし。それに部屋に戻ってもすることないですし。 あ、もちろん遥翔様がいやなら帰りますよ?!」

「いやなんて、そんなことない。むしろ嬉しい。」



よかった…!

遥翔様がどう考えているかはわからないけど、少なくとも私はみんなで賑やかに食事するほうがすきだからなぁ。

一人で食べてると美味しいはずのご飯を味が落ちちゃうような気がするんだよね。



「たしかに、みんなで食べるのは楽しいもんな。 部屋に戻ってもすることがないなら俺の部屋で勉強の続きでもするか?」

「えっ…、遥翔様がいいならやります。」



遥翔様からまさかのご提案?!

勉強…やりたくないなぁ、けど遥翔様が言い出してくれたことだからなぁ……



「本当に良いのか?ぶっ通しで2時間くらいすると思うけど。」

「え”、2時間、ですか……? それなら私は遠慮しておきますね。ははは……」



2時間も集中できるはずがないので! 

というかまず勉強やりたくないです…っ 難しいもん!



「はは、2時間は流石に冗談。 オレだったら余裕でやるけど、弥夏はきついだろ?」

「は、はい…」

「それに、食事のあとは風呂の時間なんだ。」

「そうなんですね。 ここのお家のお風呂は広そうですねっ」



お家も、外から見ても広いし、中も広い。 食卓もこんなに広いんだもん、お風呂だけ小さかったら、なんか、ちょっと怖いよ。



「あぁ。 オレたちはいつも入っているからどうとも思わないが、結構広い方だと思う。」

「ですよね。なんとなく想像がつきます。」




 私たちメイドは入浴時間が決まっていて、その時間内に入ること、と事前にもらった紙に書いてあった。

メイドの入浴時間と書いてあったから、メイドさんが全員この時間に入るんだよね、たぶん。

いろんなメイドさんたちと一緒に入れるくらいなら、温泉くらい広いんだろうなぁ…

私が考えている間に、遥翔様は食事が終わったらしい。



「ごちそうさまでした。 ごめん、待たせたな。」

「いえ、遥翔様とお話できてうれしかったです。」

「そうか、よかった。…部屋、戻るか。」

「そうですね。」



遥翔様のお皿を返して、部屋に向かう。



「そういえば、ご褒美のトレーニングっていつやるんだ? 学校終わった後とか…?」

「トレーニングはいつも早朝にやってます。朝は静かで気持ちがいいので…!」

「早朝、か。 オレ、もしかしたら……というか、多分起きてないから、遠慮なく起こしてくれ。」

「……はい。」



遥翔様を、おこす。

私のために起きてもらうのは失礼な気もするけど、返事しちゃったからにはしないとだよね。



「あ、起こすときにもしかしたらオレの悪癖が出るかも知れないけど、そこは頑張って乗り越えてくれ。」

「悪癖、ですか…? わかりました。」



起きるときの悪癖って聞くと、少女漫画とかに出てくる抱き癖とか、そういうのを想像するけど、さすがにないよね……?

もし本当にもし、あったとしたら、反射的に顔面パンチをお見舞いしてしまうなんてことがあるかもしれないんだけど、大丈夫…だよねっ? うん、多分大丈夫なはず……!


もし顔面パンチしてしまったら……平謝りしますのでっ!!!