ここが、西郷家のお家、か……
紅雷弥夏は今、とてつもなく大きなドアの前に立っている。
ピーンポーン
インターホンを押し、中から人が出てくるのを待つ。
ここは、SAIGOグループの社長、西郷鷹正様と奥様の優理香様。
そして、お二人の一人息子の遥翔様が住んでいらっしゃるお家だ。
その3人に仕えているメイドさんや執事さんもここに住んでいるらしい。
それにしても、ここは家って言うより豪邸だな。
私は今日からここで働くのか……メイドさん兼ボディーガードとして。
ガチャッっと音がして、大きなドアが開く。
「弥夏さん、ようこそ。どうぞこちらへ……」
メイドさん姿の女の方が、出迎えてくれた。
胸あたりについている小さな名札には、メイド長 河原と書かれている。
この人が、メイドさんの1番上の人なんだ。覚えておこう。
大きなドアをくぐり、豪邸の中に入る。
中は、和風と洋風をどちらも取り入れたような仕様になっていた。
わぁ……すごく素敵なお家だな。
少し先にある応接間につくと、私と同い年くらいの男子がソファーに座っていた。遥翔様だ。
「遥翔様、お連れいたしました。」
「はじめまして。遥翔様の専属ボディーガード兼メイドさんをさせていただきます、紅雷弥夏です。よろしくお願いいたします。」
「よろしく。」
そう言いながら、遥翔様は立ち上がり、私の前に来た。
わぁ、すごい整った顔立ちの人だな。
澄んだ深い青色の瞳に、黒いサラサラの髪の毛。
ゆるいツリ目のその奥は、固い自分の意志があるような光を宿していた。
ここに来る前に見た写真からも、相当なイケメンだとわかっていたけど、目の前で見るともっとイケメンだな……
さすが、ご両親が超のつく美女と美男なだけある。
「弥夏さんにはこれから、遥翔様の専属ボディーガード兼専属メイドさんとして働いてもらいます。」
私の仕事は、学校や外出先での護衛と、身の回りのお手伝いを主にするんだっけ。
事前に調べた限り、私がお手伝いをしなくても充分に一人で身の回りのことはできるくらい、遥翔様には抜けがなかったけど……
私、ほんとに専属メイドする必要あるのかな……?
家事もあんまりだし、専属メイドとして仕えられる自信がないよぉ……っ
雇われたからにはやるけど……っ!
「今日、この後に関しては、荷解き、その他自由にしてもらって構いません。約1時間後の6時には夕ご飯なので、それまでには食卓に来てくださいね。」
「わかりました。」
「では。」と言い、遥翔様と河原さんは部屋を出た。
__ふぅ、緊張したぁ……っ!
2人が部屋から居なくなって、張り詰めていた空気がやわらいだ気がする。
6時に夕食って言ってたよね。
あと1時間、夕食までにぱぱっと荷解きだけでも終わらせとこうかなっ
私の部屋は、2階にある遥翔様の部屋の真横だ。
専属だからかな、遥翔様のご迷惑にならないようにしないと。
部屋は、6畳間で1人部屋にしては広々としている。
大きめな窓も付いていて、この家の一階部分の天井がとても高いからか、3階建てくらいの高さに見える。
ここが今日から私の部屋になるんだ……っ!
思ってたより広くて、エアコンも付いてるし快適そうでよかった…!
リュック1つ分の私の荷物は、ものの5分で片付け終わった。
夕食までまだ時間あるなぁ、家の探索でもしようかな。
部屋を出る__前に、
この扉はなんだろう……?
部屋に、クローゼットや廊下につながる扉とは別に、もう一つ扉が付いてるんだ。
その扉は、遥翔様の部屋と私の部屋を隔てる壁についている。
もし遥翔様の部屋に繋がってたらどうしよう……とか考えて、開けてなかったけど、冷静に考えてそんな事あるわけないよねっ。
もしかしたら、遥翔様の部屋と私の部屋の間に廊下があるのかもしれないし……!
ガチャッ
「ん? なんだ、弥夏か。」
「__失礼しました!」
「は?」
ガチャンッ
__え?
今の、遥翔様の部屋……
ほんとに繋がってた……!?
いつでも護衛できるようにってことなのかな……
うーん、一旦この家の探索しにいこうっ。
私は、さっきの出来事にまだ少しドキドキしながらも、西郷家の家を探索することにした。
部屋から出て、廊下で左右を見回す。
1階から2階に繋がる階段は、2つ。
両端の壁ぞいに幅も広い、立派なものがついている。
私の部屋は、左から鷹正様、優理香様、遥翔様ときて、その次の4番目のところにある。
私より右側にある部屋は全て、メイドさんさんや執事さんの使っている部屋なんだそう。
今日、初めてここにきたばかりだし、事前に家に届いた紙に書いてあったことしかわからないけど……
んー、そういえば中庭があるって書いていた気がするから、そこに行ってみようかな……っ!
豪華な階段を降りて、1階についたらいい匂いが漂ってきた。
そういえば、ここの扉の先は食卓だっけ。
ちょっとだけ、覗いてみてもいいかな……っ?
そーっと扉を開けて中を覗く。
わぁぁっ!
覗いた先は、大きなシャンデリアに長いテーブルが置いてある、とても豪華な場所。
しかも、そのテーブルいっぱいに置いてあるお料理のどれもとっても豪華!
美味しそうなごちそうが、たくさん並んでる……!
「すごい……っ!」
「だろ?うちのシェフは全員一流なんだ。」
「へぇ…!そうなんですねっ!」
全員一流なんだっ、すごいなぁ……っ
「ところで、こんなところで何してるんだ?」
「あ、それは今から中庭に行こうとしてて。」
「なるほど、おれも一緒に行っていいか?」
「もちろんです!一緒に行きましょう遥翔様!」
……えっ?遥翔様?
ガバッと振り返ると、遥翔様がにっこにこで立っているではないですか!!
「あわわ、遥翔様!なな、馴れ馴れしく話してしまいましたっ、すみません……っ!!」
なんで遥翔様だって気づかずに話していたんだろう!?
わぁぁっ私のバカぁぁ!!!
「そんなに慌てなくても、全然良いよ。」
遥翔様は、かわらず笑顔で話しかけてきてくれる。
なんて優しいお方なんだ……っ
私なんて、さっき遥翔様の部屋に繋がる扉をなにも考えずに勢いよく開けてしまったことをまだ引きずっているのにっ!
「それより、中庭に行くんだよな?ついでに家の紹介もする、ついてきて。」
「えっ、いいんですか?」
「うん。おれの専属だし、仲も深めたほうがいいだろ?」
「たしかに、そうですね。お願いします…!」
そう言って、遥翔様に一礼。
まさか、遥翔様から家の紹介をすると言ってくださるなんて…!
話しかけるのが苦手な私にとって、相手から話しかけてくれるのはとってもありがたい……っ!
「なぁ、なんでそんな……後ろなんだ?」
「えっ、そりゃ、遥翔様の横に立つなんて恐れ多いのでここに居るのですが……」
すると遥翔様は、「はぁ……」とため息をつき、私の腕を引っ張る。
「わっ!?」
「弥夏はおれの専属だろ。堂々とおれの隣に立て!」
そう言って、私を隣に立たせる。
そうだよねっ、私は遥翔様の専属!
怖気づいてたらダメだ!
「そうですねっ。今の遥翔様の専属は私。隣にいさせてもらうからには堂々としていなくては!」
「その意気だ。さ、行くぞ。」
「はい…!」
遥翔様は私の手を握ったまま、歩き始めた。
「あの、遥翔様…」
「ん?どした?」
「手、離しても……?」
遥翔様は私の握られている手を見て、一瞬沈黙
その後、
ハッとしたように繋いでいる手をバッと離す。
「ごめん…」と低く呟き、早足で歩いて行ってしまう。
……あっ
遥翔様、照れてる……?
後ろ向きだけど、見えてしまった。
遥翔様が首まで赤く染まっている。
恥ずかしかったのかな、そんな少し意外な一面が可愛い__
って、そんなこと言ったら怒られちゃうか……っ

