囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される


 私たちの結婚が決まり、少し落ち着いた頃――。

「レオン。ここが私が育った家です。何も残っていないけれど」

 私が育った生家を二人で訪れていた。
 全てが焼けてしまって何も残っていない。
 彼は家があった場所に花を添え、母のために祈ってくれた。

「お母様も今のアイリスを見て喜んでいる、きっと」

「はい。私もそう思います」

 エリスに突き落とされ、川に落ちる前、ほんの少し時の流れが遅くなった気がした。
 あの高さから落ちれば、相当なダメージが残るはず。
 気絶をしないでブローチに願いを込められたのは、お母様が守ってくれたのではないかと感じた。

「本当に良いのか?治癒力があることが広まれば、オスカーのように力を狙おうとする奴等が出てくる。もしかしたら危険と隣り合わせの生活になるかもしれない」

 今はもう私の力は少しずつ戻り始めている。
 レオンがたくさんの人を守っているように、私も人々を救える聖女になりたい。

「レオンに出逢ってから、考えが変わりました。この力は自分のためだけに使うのではない。人々を救うために授けられた力なんだって。だから私は多くの人を癒せる聖女になりたいんです。レオンが生きる希望をくれたように。もしも私が危険な目に遭ったら、レオンが助けてくれるでしょ?」

 フフっと自然と笑みが溢れる。

「ああ、俺が必ず守る」

 彼はふんわりと優しく私を抱き上げ、大丈夫だと言い聞かせるようにキスをしてくれた。




 さまざまな(しがらみ)に囚われていた聖女は、一人の騎士の寵愛を受けながら、一歩ずつ前へ進み出した。



<終わり>