囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される

「はぁっ……。はぁっ……」

 まだ苦しい。必死で息をする。
 背中を擦ってくれ、呼吸が落ち着いたころ
「良かった」
 彼にギュッと抱きしめられた。

「どうしてカートレット様がここに?」
 彼の腕が私の身体を包み込んでくれている。

「ブローチに願ってくれただろう?アイリスの意識が伝わってきて、危ない状況だと思い、転送魔法で飛んできたんだ」

 そういえば、落ちた時に彼に会いたいと願った。

「さぁ、帰ろう。洋服が濡れている。身体が冷えてしまう、早く着替えなければ」

 はいと返事をしようとしたが、言葉に詰まった。
 私が帰ったらエリスがなんて思うか。落ちる前に彼女の本音が聞こえてしまった。
 友達だと思っていたのは私だけだったのね。
 私はあのお屋敷の方たちにとって、邪魔な存在。
 居なくなった方が皆のためになる。

「私は帰れません」

 私の言葉を聞き、彼は眉目をひそめた。

「なぜだ?」

 どうしよう。
 エリスのことは話したくはない。
 無言でいると、ぽつぽつと雨が降ってきた。
 雷が落ちるかもしれない、川の近くだから危ないし。
 カートレット様も私を助け全身が濡れている。
 そうだ、風邪を引いているんじゃ。

「カートレット様だけ先に帰ってください。私はゆっくりその後帰ります」

「そんな嘘が俺に通用すると思っているのか?」

 声が一層低くなった。
 表情からも彼が怒っているように見える。

 でも、帰れない。帰りたくない。

 私の態度に、ふぅと息を吐き
「わかった。とりあえず、ここから避難しよう。近くに洞窟があったはずだ。そこで身体を温めよう」
 そういうと彼は私を軽々と抱きかかえた。

「えっ。あの、カートレット様、重いです。降ろしてください」

 最初に助けてもらった時もこんな感じに抱きかかえられたけれど、今はなんだか恥かしい。

「俺がそんなに貧弱な男に見えるのか?」

 また怒らせちゃったかな。
 しばらく歩くと洞窟が見えた。
 彼が薪になるようなものを集め、魔法で火を灯してくれた。

 すごい、なんでもできるのね。
 感心していると
「服を脱げ。熱を奪われる」
 そう言うと、彼は自分の上衣を脱いだ。
 白い肌が露になる。逞しい筋肉が見え、同時に戦でついたのであろう傷もいくつか見えた。

「強引に脱がせたくはない。早くしろ」

 いつもより口調が荒い気がする。彼は相当怒っているのね。

「はい」

 返事をし、洋服を脱いだ。
 下着が露になる。恥かしさとともに、寒さが襲った。
 
 胸を両手で抑えていると
「こっちに来い」
 彼に手を引かれ、ポスっと膝の上に座らされた。

 目の前には炎の熱と背中には彼の体温を感じる。温かい。

「これなら見えないだろう」

 配慮してくれているのね。
 だけど、男性とこんなに密着などしたことがないから、心臓が飛び出しそう。