囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される

「そうだ!アイリス、本当にさっきはごめんなさい。謝りたくて」

「ううん。私の方こそ、ごめんなさい。メイドとして主人に気軽に触れるなんて、あってはならないことよね。止めてくれてありがとう」

 良かった。これで彼女と仲直りができそうね。

「それでね、アイリスにお願いがあるの。カートレット様、実は熱があるみたいで。さっき顔が赤かったでしょ。メイド長に相談をしたら、今はお薬がちょうど無くなってしまっているらしくて。カートレット様は、明日は用事があるみたいだから、早く治したいらしいの。熱に効く薬草が近くで採れるから、一緒に摂りに行ってほしいのよ。きっとカートレット様も喜ぶわ」

 本当に熱があったんだ。
 私の治癒力で治せば……。
 そうか、力を使うことは禁じられているし
「わかった。もちろん一緒に採りに行くわ」
 私が返事をすると、エリスはニコッと笑った。
「じゃあ、この後向かいましょう。天気が悪くなりそうだから、すぐに出かけましょうか」
 

 窓の外の雲を見ると、確かに黒くなっていた。
 早く行かなきゃ、雨が降り出しそう。
 
 その後、私はエリスと共に薬草を摂りに出かけた。
 敷地から出て、山を登る。
 土地勘がないから自分がどこを歩いているのかわからないし、斜面がかなり急だった。

「あっ、あったわ!」

 エリスが指を刺した先に、薬草が生えていた。が、一歩間違えれば危ない崖の上に生えている。
 恐る恐る近づく。崖の下には流れが急な川が流れていることがわかった。落ちてしまったら、命はないだろう。
 ゴクッと喉を鳴らし、慎重に歩み、手を伸ばした。
 
 これでカートレット様の熱が下がればいいな。
 薬草を掴み、振り向こうとした。その時――。

「貴方なんて居なくていいのよ。邪魔者。バカな女」

 いつもとは違う、低いエリスの声が聞こえ、その瞬間――。
 ドンっと思いっきり突き飛ばされ、崖の上から転落をしてしまった。
 
 私の手は空を描く。
 叫び声すら出なかった。

 着地した先が川の中だった。
 ドンっと衝撃が体中に走る。
 水の流れに抵抗をし、もがくも息ができない。

 ああ、私はこのまま死ぬのね。
 カートレット様との約束、守れなかった。
 胸のブローチに触れ、最後にもう一度だけ彼に会いたい、そう願った。
 
 ごぼごぼと口の中は水で一杯になり、力が抜けていく。

「アイリス!」

 近くでカートレット様に呼ばれた気がした。
 水の中で目を開けると、彼が私の腕を掴んでいた。

 カートレット様?
 そうか、走馬灯ってこういうことを言うのね。
 私は再び目を閉じた。


「アイリス!しっかりしろ!アイリス!」

 遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 唇に温かい感触がする。
 
 意識が戻り、苦しさを覚え
「ゴホッ!ゴホゴホッ!」
 咳が出て、息ができるようになった。

「アイリス!」

 咳と同時に目を開けると、カートレット様の顔が見えた。