数日が経過し、何度も道の途中で休憩を挟みながら進む。道中、ヴィシャスが車酔いするせいで何度も止まることになった。

 意外に弱点の多い奴だ。地下牢の天井をぶち破って登場した時はヤバさと強者の風格、それに、少し、ほんの少し感じていたカッコよさは今ではなくなっていた。

 配下を従える傭兵団の首領というより配下に面倒を見てもらっている。子供みたいだった。
 実際、彼等の近い距離感をこの数日でよくわかった。組織というより家族みたいだ。血が繋がっていなくても硬い絆がある。突然、攫ってきた人達だけれど、そんなに悪い人達でもないのかも、単純な私は既に絆されかけている。
 道中、雑談する(気を遣ってか、たまに私にも話しを振ってくれるけど、他人との会話経験の乏しい私は上手く返事をできなかった。)彼等は中の良い本当の家族みたいだった。

「……………」

 私はそれをちょっと羨ましく思う。


 馬車の動きが停まる。
「おぉっ!着いたぞヴェルゼ!ここが我が【赤竜の覇団】アジトだ!」

 いの一番に降りたヴィシャスが自慢げにアジトを見せびらかすように手を広げる。

「…おっきいね」

 傭兵団のアジトというからもっと薄暗いものを想像していた。しかし、私の前にある建物は山間の拓かれた土地に建てられた立派な木造建築だった。行ったことはないけれど旅館というものに近いのかもしれない。

「くく、悪党のアジトがこんな堂々とあって良いかと考えておるじゃろう?」
「えぇまあ」

 ラビィルさんが私の抱いていた疑問を当てる。

「そこの神経質なエルフ、ナイゼルが幻術魔法を張っておる。部外者は気づくことすらできんのよ」

 自分に注目が向いたことに気付いたナイゼルが懐から取り出した短杖を振る仕草をする。

 なるほど、魔法か。大して詳しくないから思いつかなかった。

「ヌシにも魔法の稽古を儂直々につけてやろう。ひょっとしたら何か才能が眠ってやるかもしれん」
「…………」

 そうだろうか?自分が何をやっても上手くいく自信がなかった。

「アニキ達ィ!もう帰りやしたんですかい?」
「おかえりなさい!」
「ねぇねぇ、お土産はある?」

 旅館、もといアジトの入口に近づくと傭兵団の仲間らしき人達がわらわらと出てくる。
 てっきり傭兵という字面のイメージから屈強な男ばかりかと思っていたけれど、小さな子供達や女性も少なくない。
 そして、獣人の耳や尻尾、エルフの耳、魔人の角等を生やしている亜人の特徴を持つ者ばかりが多かったが私と変わらない人間も少数いる。

「おーただいま!領都で流行ってる玩具とか買ってきたぜぇ」
「…ふぅん」 

 ヴィシャスは子供みたいなものなので仲が良いのだろう、子供達に囲まれ、土産を配っている。人気はあるようだった。
 エルフのナイゼルとオオカミ型獣人のガルフは大人組で集まって情報共有を行っているみたい。

「ここには儂等の志に共鳴した同志だけでなく人間の魔の手から救い出した者も集まっている。全員が戦闘員ではなく、各々が自分のできることを担っておるのじゃ」

 そうラビィルさんが説明してくれる。
 殺伐としていたらどうしようかと思っていた。アジトは思っていたより和やかな雰囲気で安堵する。

「ヌシもすぐなじめるから心配するな」
「……………」

 カカッと笑う彼女に同意することはできなかった。
 子供をおんぶして騒ぐヴィシャスを見る。思っていたよりいい人達なのかもしれない。
 だけど、私は自分が彼等の中に入りなじむ様子は想像できなかった。
 土台、私は他人はおろか自分の家族とすらなじめなかった人間なのである。まぁ、牢屋暮らしより悪くなることもないだろう。

 とにもかくにも私の新しい生活はこうして始まった。