「待って、彼は人間でしょ?なのに亜人の希望なの?」

 獣に近い見た目のラビィルさん、ガルフ。耳が尖りエルフ族と見受けられるナイゼルと違いヴィシャスは私と変わらなく見えた。確かに八重歯は普通より少し尖っているかもしれないけど、その程度の違いでしかない。

「ハーフじゃな、血が薄いと亜人の特徴があまり出ん。それに赤髪は人間にはおらんじゃろ」

 おらんじゃろ。と言われても人間自体、引きこもりの私はあまり見たことがないためよく知らない。でも話の腰は降りたくないから続けてもらう。

「ヴィシャスは孤児で奴隷として売られておった。それはみすぼらしく、今にも死にそうな程じゃったが儂には一目でわかった。奴はこの国が亜人から人間至上主義に舵を切る前に王であった男の血を引く継嗣じゃとな」
「くちゅんっ」

 ヴィシャスは図体に見合わない可愛らしいクシャミをしていた。

「奴隷たちを解放した後、養子として引き取ることにした時には既に奴を王にすると決めておった。そして儂はヴィシャスを鍛え上げることにしたのじゃ」

 ラビィルさんが私を見る。

「そしてつい先日、儂らの耳に地方領都にて魔痕を持つ女の処刑が執り行われるという御触れが王都で出回った」

 私の暮らす地方領都だけでなく、王都にまで報せが行くとは…。私の処刑は国単位の行事なんですか、とブルーな気持ちになる。この様子ではどこにも逃げ場はなさそうだ。完全に犯罪者扱い……いやそれ以下かもしれない。

「ふふんっ儂はこれを運命と思った。次代の王と連れ合いとなる魔痕持ちが同時期に存在するのじゃからな、流れは儂らに来ておる」

 私のへこんだ気持ちには気づいた様子はなくラビィルさんはそうしめくくった。

「あのーさっきも言ったんですけど…結婚とかする気ないんですけど…」

 ヴィシャスがお尋ね者扱いである云々を抜きにしても私は彼と…いいえ誰が相手でも上手く付き合える自信がない。ましてや夫婦なんてもってのほかだ。
 自分が誰かと将来を共にすることなんて身の毛がよだつ。私は一人で生き、一人で死ぬ方が気楽だった。
 幸福に気持ち悪さを感じてしまう。…まあ国盗りを画策する傭兵団の首領?王?の妻になって幸福かどうかは疑問の余地がだいぶあるけど。

「ぬぅ。すぐにとは言わんよ。チャンスをくれ。まずは友達から始めて互いを知ってから結婚すればよい」
「…………まぁ、それなら」

 本音を言えば友達でも嫌なくらいだが、譲歩され、一応は処刑から助けてくれた人達を拒絶し続けることも悪い。ここらが互いの妥協できる塩梅だろう。

 ラビィルさんは悪い人じゃないみたいだし…。私は渋々と頷く。