「一人で突っ走り過ぎですよ、ボス」
「アニキは無茶しすぎっすよぉ。置いてかれたあっしらの身にもなってくだせェ」
ヴィシャスに担がれ城下街を駆け抜けた私は都市の外に到着している。城を出てすぐの頃はまだ無事だった警備兵は追いかけてきたが、この赤毛の男の速さには誰もついてこれなかったようだ。
ようやく肩から降ろされ懐かしの地面に自分の足で立つことができる。
「……………」
都市の外では彼の仲間が待っていたようだった。領主が言っていた傭兵団の部下なのかもしれない。チンピラっぽいオオカミ型の獣人男と冷たい印象を受けるエルフの男性と話している。2人とも人間種ではない亜人だ。
付近には粗末な馬車が置かれ、あれで移動してきたのだと思われる。
何を言えばいいのか分からないから私はずっと黙りこくっている。特に拘束はされておらず、逃げ出そうと思えばすぐに動けたが、戻った所で処刑が待っているだけだ。どうしようもない。成り行きに身を任せ天を仰いでぼんやりしていた。
「それで首尾はどうでしたか?」
「おうよ!無事に連れて来たぜ。オレが玉座につくための運命をよぉ」
バシンッといきなり横に立っていた私の背を叩いてきた。痛い…。
「こりゃぁ!女性はもっと丁重に扱わかんかぁ!儂はぬしをそんな風に育てた覚えはないぞっ。どうせ道中も雑に扱ったのじゃろう!」
馬車から小柄なフードを被った人影が跳ねるように降りると持っていた長杖の先でヴィシャスの頭を殴った。
「イテッ!いててててっ、悪かった、悪かったって母ちゃん!」
ヴィシャスがその場でうずくまって両手で頭を庇っている。
「…………」
さっきまでの豪快かつ堂々とした態度からは想像できないほどの情けない態度である。
「謝る相手が違うじゃろがい!」
「ごめんなさい…!乱暴でしたぁぁ!すんませんすいません」
地面に頭を擦りつけて私に謝ってくる。あまりにもあんまりだ。
部下達も引いている。
「ったく!すまんのぉ。不肖の息子で…。でも悪い奴じゃないんじゃよ」
小柄な人影がフードを外す。
「可愛いいっ!?」
小柄な人影はウサギ耳を生やし、白くてふわふわな毛に全身を包まれた獣人だ。
思わず抱きしめたくなる。
「それで娘っこよ、貴殿が魔痕を持って生まれたというヴェルゼリア・コンスタンサで間違いはないのじゃな」
「はっはい」
悪党のヴィシャスの仲間なのだから、心を許してはいけないと思いつつも愛くるしい見た目に思わず心が緩んで素直に答えてしまう。
「それで、ヴィシャスの妻になってくれることを了承してくれたのかぇ?」
「はっはぃ…いいえ!?」
思わず頷きかけて慌てて言い直す。忌み子の私といえど会ったばかりの犯罪者と夫婦になる度胸はない。
「はははっ、ヴェルゼは照れ屋なのさ。もうオレの女になったんだ」
「黙れ!馬鹿者!」
「いってぇ!」
勝手なことを言い出すヴィシャスが再び殴られた。というか既に愛称で呼んできており馴れ馴れしいよ…。
「すまんのぉ。ヴィシャスは荒くれ者の男に囲まれ育ったせいで女性の扱い方を知らんのじゃ」
「いえ…」
消え入りそうな声で答える。勢いで拒否したけど殺されないだろうか。
「よいかヴィシャスよ。レディに求婚する時は優雅かつ優しく寛容な態度で申し込むのじゃ。心を解きほぐすようにな…さすれば女はメロメロじゃ」
「へーいへい。わぁったよ!」
叩かれた頭を掻きながらヴィシャスが立ち上がると似合わない畏まった表情で私を見る。
「ヴェルゼリア・コンスタンサさん…どうかオレと結婚してください」
明らかに言い慣れていない棒読みで告白された。
「ひへっ」
私は髪に隠れた奥でひきつり微笑む。
「お断りします」
「アニキは無茶しすぎっすよぉ。置いてかれたあっしらの身にもなってくだせェ」
ヴィシャスに担がれ城下街を駆け抜けた私は都市の外に到着している。城を出てすぐの頃はまだ無事だった警備兵は追いかけてきたが、この赤毛の男の速さには誰もついてこれなかったようだ。
ようやく肩から降ろされ懐かしの地面に自分の足で立つことができる。
「……………」
都市の外では彼の仲間が待っていたようだった。領主が言っていた傭兵団の部下なのかもしれない。チンピラっぽいオオカミ型の獣人男と冷たい印象を受けるエルフの男性と話している。2人とも人間種ではない亜人だ。
付近には粗末な馬車が置かれ、あれで移動してきたのだと思われる。
何を言えばいいのか分からないから私はずっと黙りこくっている。特に拘束はされておらず、逃げ出そうと思えばすぐに動けたが、戻った所で処刑が待っているだけだ。どうしようもない。成り行きに身を任せ天を仰いでぼんやりしていた。
「それで首尾はどうでしたか?」
「おうよ!無事に連れて来たぜ。オレが玉座につくための運命をよぉ」
バシンッといきなり横に立っていた私の背を叩いてきた。痛い…。
「こりゃぁ!女性はもっと丁重に扱わかんかぁ!儂はぬしをそんな風に育てた覚えはないぞっ。どうせ道中も雑に扱ったのじゃろう!」
馬車から小柄なフードを被った人影が跳ねるように降りると持っていた長杖の先でヴィシャスの頭を殴った。
「イテッ!いててててっ、悪かった、悪かったって母ちゃん!」
ヴィシャスがその場でうずくまって両手で頭を庇っている。
「…………」
さっきまでの豪快かつ堂々とした態度からは想像できないほどの情けない態度である。
「謝る相手が違うじゃろがい!」
「ごめんなさい…!乱暴でしたぁぁ!すんませんすいません」
地面に頭を擦りつけて私に謝ってくる。あまりにもあんまりだ。
部下達も引いている。
「ったく!すまんのぉ。不肖の息子で…。でも悪い奴じゃないんじゃよ」
小柄な人影がフードを外す。
「可愛いいっ!?」
小柄な人影はウサギ耳を生やし、白くてふわふわな毛に全身を包まれた獣人だ。
思わず抱きしめたくなる。
「それで娘っこよ、貴殿が魔痕を持って生まれたというヴェルゼリア・コンスタンサで間違いはないのじゃな」
「はっはい」
悪党のヴィシャスの仲間なのだから、心を許してはいけないと思いつつも愛くるしい見た目に思わず心が緩んで素直に答えてしまう。
「それで、ヴィシャスの妻になってくれることを了承してくれたのかぇ?」
「はっはぃ…いいえ!?」
思わず頷きかけて慌てて言い直す。忌み子の私といえど会ったばかりの犯罪者と夫婦になる度胸はない。
「はははっ、ヴェルゼは照れ屋なのさ。もうオレの女になったんだ」
「黙れ!馬鹿者!」
「いってぇ!」
勝手なことを言い出すヴィシャスが再び殴られた。というか既に愛称で呼んできており馴れ馴れしいよ…。
「すまんのぉ。ヴィシャスは荒くれ者の男に囲まれ育ったせいで女性の扱い方を知らんのじゃ」
「いえ…」
消え入りそうな声で答える。勢いで拒否したけど殺されないだろうか。
「よいかヴィシャスよ。レディに求婚する時は優雅かつ優しく寛容な態度で申し込むのじゃ。心を解きほぐすようにな…さすれば女はメロメロじゃ」
「へーいへい。わぁったよ!」
叩かれた頭を掻きながらヴィシャスが立ち上がると似合わない畏まった表情で私を見る。
「ヴェルゼリア・コンスタンサさん…どうかオレと結婚してください」
明らかに言い慣れていない棒読みで告白された。
「ひへっ」
私は髪に隠れた奥でひきつり微笑む。
「お断りします」
