「姉様……お久しぶりですね。こんなところで再会するなんて、運命の悪戯かしら?なんちゃって♪私が未来の夫に貴方を捕縛するようおねだりしたんですけど」

 ティアラの声は甘く毒を塗ったように響く。牢の外から私を悠然と見下ろしていた。ドレスの裾が優雅に揺れランプの光が彼女を輝かせる。対照的に、私はぼろぼろの服で鎖に繋がれ動くことすらままならない。顔立ちは私とよく似ているのに明暗は悲しいほどに別れていた。

「…………」
 久しぶりと言ってもずっと牢で暮らしてきた私は彼女と言葉を交わした記憶はない。どう関われば良いかもわからなかった。
 彼女が牢の鉄格子に近づき、手にしていた扇で口元を隠して笑う。

「ふふ、姉様の顔、絶望的ね。領主家の恥を、ようやく拭えるわ。夫も手柄を立てたことで私達の栄達は約束された!姉さまも初めて家族の役に立ててさぞ嬉しいことでしょう!」

 言葉に棘があり、胸に刺さった。
  でも、今はそれよりみんなの無事を聞いてみたかった。内容はともかく看守よりは会話してくれそうだ。

「ティアラ……傭兵団の仲間たち、ヴィシャスは……? 無事なの?」

 妹の目が細くなり、残酷な笑みが深くなる。私は嫌な予感がした。この先は聞いてはいけないと心が警告してくる。

「ああ~~……、あの竜人の男とその仲間たちのこと? ふふ、ごめんなさいお姉様、残念なお知らせを告げなくていけなくて私はとても心苦しいわ」
 芝居がかった口調でよろけ額に手を当てている。

「赤竜覇団は壊滅したわ。薄汚い亜人同盟もろともね。死んじゃったのよ」

「え」

 体が震えて鎖がカチャリと音を立てる。壊滅……? そんな、嘘。ヴィシャスが死ぬはずがない。

「嘘……嘘でしょ? ヴィシャス達がそんな簡単に……」
 鉄格子に縋り付く。

 ティアラが扇子を広げ嘲る。
 「嘘なんかじゃないわ。アーサー率いる騎士団が総出で襲撃したの。森は血の海になったそうよ。あの竜人も聖剣に斬り裂かれて……ふふ、哀れね。姉様の男だったんでしょう?悪人同士お似合いの末路ね」

 ガツン、と頭を殴られたかのような衝撃が走る。壊滅……全員、死んだの? 胸が痛く、息が詰まる。

「あ…………あ……あ……」
 絶望が、心を黒く染める。

 「姉様、絶望の顔、素敵よ。処刑の日を楽しみにしていて。アーサーと私は姉さまの分まで幸せになるから。ちなみに処刑は明日になるわ。それじゃ」

 ティアラの声が遠ざかり聞こえなくなる。
 ヴィシャス……あの頼りがいのある温かな背中、赤い瞳、無駄に自信満々な声。すべて、失われたの? 亜人同盟、未来、すべてが崩れ去った。
 一人、牢で泣く。ヴィシャス……私、役立たずでごめんね。絶望の闇が、私を飲み込む。
 
 すべてが終わった。