「あ……あな、……あなたは……」

 突然のことに言葉が詰まる。確か、いつか帝都で見た顔だ。私の、妹の婚約者として。
「お前を捕縛にきた。まさか死刑囚が檻から出て指名手配されていないと思っていたわけでもないだろう?」
 何でもないことのように聖騎士アーサーが冷たく言い放つ。

「な、なん……」
「何でここにいるかと聞きたいのか?ハッ、いいだろう。冥途の土産に教えてやる」
 一切の情を感じさせない声色だが説明はしてくれるようだ。全くありがたくないけど。

「ヴィシャス……みんな……」
 心臓が痛い。皆はどうなったんだろう。ヴィシャスが負けるとは思わないけど……。

「答えは簡単だ。『鉄獣武闘団』は帝国の手駒だからだ……本人たちはこちらを利用しているだけのつもりだろうがな」
 馬鹿な連中だ、吐き捨てるように聖騎士は言う。
「…………!!?」

 そんな、何で亜人の彼等が人間のアーサーと……。

「驚くことか?所詮は欲望に忠実な浅ましい亜人だ。見逃してやる代わりに反抗的な亜人勢力を一か所に集めさせる取引をしたのだ。殲滅するためにな。ついでに魔痕の女を捕まえ差し出せば帝国の領土を一部割譲してやるとも、可愛らしい猫ちゃんだ。そんな都合のいい嘘を鵜呑みに信じるとは。人もどきにやる土地などあるわけがないのに」

 アーサーはゴルザ達を嘲っていた。でも途中から私の耳には入っていない。そんな、……全て聖騎士の掌の上で亜人同盟が罠だったなんて。

「まあ所詮は獣、失敗する前提で控えておいてよかった。おかげでこうして隙をつき魔痕の女を捕縛できたのだから」

「…………ヴィシャス」

 ……みんな……ドクンと心臓が激しく脈打ち続ける。森に残された皆は無事だろうか。これが罠で殲滅作戦なら騎士がここにいるアーサーとその部下だけとも思えない。

 『鉄獣武闘団』だけでなく騎士まで出てくるならさすがのヴィシャスもまずいのではないだろうか。

「人の心配をしている場合か?これから連行されお前は再び処刑されるのだ。しかし、穢れし魔痕の女とは言え領主家の血筋でもある。最低限の扱いは保証してやるから感謝するがいい」
 騎士の手が迫り、目隠しをされる。視界が闇に覆われた。

 ……私は最後にヴィシャス達の無事を祈る。彼がいるはずの方向を見ることができないことを寂しく想いながら。