「セイッ!…セイッ!…セイッ!」
晴れた日の午前中、ヴィシャスが旅館もとい傭兵団拠点付近にある訓練場で太刀の素振りをしていた。
訓練場といってもただ、案山子や的が雑多に並べられ、木の柵で囲まれただけの屋根すらない簡素な代物である。
「…………」
私はヴィシャスが上半身裸で一心に刀を振り下ろす動作を繰り返す様子を離れた場所に腰かけぼんやりと眺めていた。
「はぁ~~~~~」
吐く息が白い。
冬も近いというのによくやるなぁ、と感心してしまう。別に彼に用があるというわけではない。ただ、拠点付近を散歩している時に偶然見かけ暇だったから見学していだけだった。
訓練場にはまばらに傭兵団の構成員達が各々弓を射ったり、練習試合をしたりと訓練に勤しんでいる。荒っぽい人が多いので訓練といっても生傷は絶えなかったりする。もし怪我人がでた時は治療するつもりだ。
私にはどうも戦闘の分野に才覚はなかったので訓練はもっぱらラビィルさんつきっきりで治癒魔法の勉強をさせてもらっていた。……魔痕の方も再び使用できるようになりたいと思っているが中々そちらは芽が出ない。
「今日のヴィシャスは一段と気合が入っているねぇ」
「あ」
黙って腰かけていると訓練に区切りがついたらしい団員がいつの間にか隣に立っていた。青色の肌に黒い目をした亜人の女性だった。傭兵団では少数派ではあるけれど女性も在籍している。彼女の見た目に申し訳ないことに初対面は恐ろしく思ってしまった。
でも今ではそんなことはない、私も傭兵団の拠点で過ごすうちに人との交流が増え、仲良くしてくれる人もできた。今では彼女も慣れ親しんだ相手だった。
「そう……なんですか?私にはいつも通りに見えます……」
我らが首領はいつだって元気いっぱいだ。
「いやいや、いつもより振りの速度も速い上に、振り下ろすたびにキメ顔してやがるんだよ」
「…………」
そう言えばたまにチラチラとこっちを見ても来ている。私を意識しているのだろうか?」
「ふふっ」
思わずおかしくなって笑ってしまう。身長が高くて野性的な彼が、いつになく可愛く見えたからだ。
「ははっ笑ってやるなよ、あいつも初めて大事な女が出来て舞い上がってんのさ」
「そう…………でしょうか」
自分に自信はない。果たして私にそんな価値があるのだろうか。だけどそう言われて嬉しく思ってしまう自分がいるのも事実だ。
「男なんてそんなもんさ、それよりヴェルゼ。よく笑うようになったな!」
「…………」
自覚はなかった。……とは言えない。自分でも檻から出てここ数か月の生活が楽しく、穏やかに過ごせていると思っていた。こんな気持ちにも檻の中にいたら知ることもなかっただろう。
「それで?あんたはどうなんだい?ヴェルゼ」
「どうってなにがです?」
「アンタの気持ちさ、ヴィシャスのことをどう思ってるんだい?」
「…………」
私は人を好きになったことがない。というより誰かを求めるという気持ちが分からないと言った方が正確か。
生まれてからずっと諦めて生きてきた。他人に何かを求めたり、期待することもない。どうせ求めてもロクな結果にならないと思っていた。幸せを期待して失い絶望するくらいなら何も持たないほうがいい。
だから、私の気持ちは私にはわからない。考えないようにして生きてきた。
だけどそう答えることは聞いているアレラさんに、私によくしてくれる傭兵団の皆に、何よりヴィシャスに不義理だと思う。
「私は………………」
真剣に考え、自分の中に答えを探す。嘘や適当には答えたくなかった。
「ヴィシャスを……好きになりたい…………とは思っています」
誰に憚らることなく胸を張って大好きだと言えるくらいに。
アレラさんは、それでいい、と私の肩を励ますように叩き訓練に戻っていった。
その後もしばらく傭兵団の訓練を眺める。残念なこと、いや喜ばしいことであるが誰も大した怪我は負わなかったので私の出番はなさそうだった。
昼食が近い。そろそろ拠点に戻って家事でも手伝いに行こうかと立ち上がった時だった。
「ヴィシャスにヴェルゼよ、こんな所におったのか!早う来い。ヌシらに火急の要件があるのじゃ!」
ラビィルさんが小さな身体で杖を振り回しながら訓練場に駆けてきた。
晴れた日の午前中、ヴィシャスが旅館もとい傭兵団拠点付近にある訓練場で太刀の素振りをしていた。
訓練場といってもただ、案山子や的が雑多に並べられ、木の柵で囲まれただけの屋根すらない簡素な代物である。
「…………」
私はヴィシャスが上半身裸で一心に刀を振り下ろす動作を繰り返す様子を離れた場所に腰かけぼんやりと眺めていた。
「はぁ~~~~~」
吐く息が白い。
冬も近いというのによくやるなぁ、と感心してしまう。別に彼に用があるというわけではない。ただ、拠点付近を散歩している時に偶然見かけ暇だったから見学していだけだった。
訓練場にはまばらに傭兵団の構成員達が各々弓を射ったり、練習試合をしたりと訓練に勤しんでいる。荒っぽい人が多いので訓練といっても生傷は絶えなかったりする。もし怪我人がでた時は治療するつもりだ。
私にはどうも戦闘の分野に才覚はなかったので訓練はもっぱらラビィルさんつきっきりで治癒魔法の勉強をさせてもらっていた。……魔痕の方も再び使用できるようになりたいと思っているが中々そちらは芽が出ない。
「今日のヴィシャスは一段と気合が入っているねぇ」
「あ」
黙って腰かけていると訓練に区切りがついたらしい団員がいつの間にか隣に立っていた。青色の肌に黒い目をした亜人の女性だった。傭兵団では少数派ではあるけれど女性も在籍している。彼女の見た目に申し訳ないことに初対面は恐ろしく思ってしまった。
でも今ではそんなことはない、私も傭兵団の拠点で過ごすうちに人との交流が増え、仲良くしてくれる人もできた。今では彼女も慣れ親しんだ相手だった。
「そう……なんですか?私にはいつも通りに見えます……」
我らが首領はいつだって元気いっぱいだ。
「いやいや、いつもより振りの速度も速い上に、振り下ろすたびにキメ顔してやがるんだよ」
「…………」
そう言えばたまにチラチラとこっちを見ても来ている。私を意識しているのだろうか?」
「ふふっ」
思わずおかしくなって笑ってしまう。身長が高くて野性的な彼が、いつになく可愛く見えたからだ。
「ははっ笑ってやるなよ、あいつも初めて大事な女が出来て舞い上がってんのさ」
「そう…………でしょうか」
自分に自信はない。果たして私にそんな価値があるのだろうか。だけどそう言われて嬉しく思ってしまう自分がいるのも事実だ。
「男なんてそんなもんさ、それよりヴェルゼ。よく笑うようになったな!」
「…………」
自覚はなかった。……とは言えない。自分でも檻から出てここ数か月の生活が楽しく、穏やかに過ごせていると思っていた。こんな気持ちにも檻の中にいたら知ることもなかっただろう。
「それで?あんたはどうなんだい?ヴェルゼ」
「どうってなにがです?」
「アンタの気持ちさ、ヴィシャスのことをどう思ってるんだい?」
「…………」
私は人を好きになったことがない。というより誰かを求めるという気持ちが分からないと言った方が正確か。
生まれてからずっと諦めて生きてきた。他人に何かを求めたり、期待することもない。どうせ求めてもロクな結果にならないと思っていた。幸せを期待して失い絶望するくらいなら何も持たないほうがいい。
だから、私の気持ちは私にはわからない。考えないようにして生きてきた。
だけどそう答えることは聞いているアレラさんに、私によくしてくれる傭兵団の皆に、何よりヴィシャスに不義理だと思う。
「私は………………」
真剣に考え、自分の中に答えを探す。嘘や適当には答えたくなかった。
「ヴィシャスを……好きになりたい…………とは思っています」
誰に憚らることなく胸を張って大好きだと言えるくらいに。
アレラさんは、それでいい、と私の肩を励ますように叩き訓練に戻っていった。
その後もしばらく傭兵団の訓練を眺める。残念なこと、いや喜ばしいことであるが誰も大した怪我は負わなかったので私の出番はなさそうだった。
昼食が近い。そろそろ拠点に戻って家事でも手伝いに行こうかと立ち上がった時だった。
「ヴィシャスにヴェルゼよ、こんな所におったのか!早う来い。ヌシらに火急の要件があるのじゃ!」
ラビィルさんが小さな身体で杖を振り回しながら訓練場に駆けてきた。
