私達は傭兵団【赤竜の覇団】の仲間の救出、聖騎士ブグラーは撃破した。

 が、だからといって全ての騎士がいなくなったわけではない。残党を追い払うためにもう一戦交える必要があると身構えていたがそんなことにはならなかった。

 リーダーである聖騎士ブグラーの敗北を知った騎士団は戦うことなく鉱山町を捨てて逃げ出したからだ。

 私はまた視察と称して町の実権を奪いに別の騎士が来ないか心配だったけれど……。

「心配ねぇよ、こんな国の端にまで来て自分の手柄を立てようとするような馬鹿はそうそういねぇだろ。それに……また来たらオレがもう一度ぶっ飛ばしてやるだけだ」

 と、ヴィシャスが安心させてくれた。
 当面は大丈夫そうだ。

 騎士達の支配から解放された鉱山町は歓喜に包まれていた。涙を流して鉱山から走り出し家族と抱き合う人の姿も少なくない。
 そして喜びが落ち着くと口々に私達に感謝の言葉を告げにきてくれる。

 人からこんなに感謝されたことのない私はどうしていいかわからずたじたじだった。慣れない状況はいつだって大変である。
 明朗快活なヴィシャスが基本的に応対し、今後の対応はガルフが本部とやり取りをしているから私のやることは傷ついた人を癒すことだけだった。

 そして状況が落ち着いた今、私達は馬車に揺られて帰路についていた。行きは徒歩だったので帰りは馬車に乗れて本当に嬉しい。町民の人達の中に御者がいて乗せてくれたのだ。ガルフはまだやることがあるそうで町にしばらくは滞在するようだ。

 町の出口まで見送ってくれた。姿が見えなくなるまで私は手を振ってから馬車に設置された長椅子に腰かける。
 クタクタだったので自分の身体を動かさずに移動できてありがたい。

「ふぅ」
 激動の日々だった。ただの情報交換の会合の見学に来ただけのはずなのに随分と大事になってしまったものだ。

「あんたには悪かったな、こんな荒事になっちまって」
 すぐ隣に腰かけたヴィシャスが言う。

「……今更言わないでよ……それに怖かったけど良かったと思うの」
「良かった?」
「うん……ヴィシャス達のこと……知れたし……成長できたと思うから」

 痛い思いも怖い思いもしたけれど得たものも大きい。自分がヴィシャスや人々の役に立てたと思うと少しだけ私は私を好きになれた。

「魔痕のこと……ラビィルさんに話さないとね」

 今はもう地の底で感じた溢れる力は感じない。発動させようと思っても輝いてはくれなかった。どうやら、まだまだ魔痕を使いこなせるには時間がかかりそうだ。

 ラビィルさんにも相談して扱い方を考えなくては。

「おう!ヴェルゼが大活躍だったって伝えておく」
「…………」
 大活躍だったのは貴方でしょ、と思う。
 でももう、私は話すのも億劫になったので黙って目を瞑り隣の偉丈夫にもたれかかって眠ることにする。

「…………ふふ」