「オッオオオォォォォ!!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 彼を癒す……だけではなく、ヴィシャスの肉体に明確な変化が起きていた。

「オオオォォ……! 体が……熱い……!」

 ヴィシャスの声が低く響く。
 彼の額から緩やかに曲がった一本の竜角が生える。目は赤く輝き、瞳が縦長のスリットになっていた。背中からは翼が芽吹き、膜状の大きな翼が広がり後部から伸びた尻尾が地面を叩く。

「…………ド、ドラゴン!?」

 竜人、その言葉が頭に浮かんだ。かつてこの大陸に存在し、今は滅びたと言われる伝説上の亜人だ。ヴィシャスの祖先に、竜の血が混じっていたのかもしれない。私の魔法が、彼の潜在的な血を呼び起こしたんだ……。

「はぁっ、はぁっっはぁぁぁぁぁ!!!」

 翼を軽く羽ばたかせ、空気が震える。尾が動き、岩盤を軽く砕く音が響く。地の底の冷たい空気が、彼から発せられるエネルギーで温まる。 傷はすべて癒え、代わりに強大な力が満ちているのが外からでもわかった。

「ヴェルゼ……こいつぁヤベぇわ、力が溢れて止まらねぇ……」

 ヴィシャスは自分の手を眺め、握ったり拡げたりする。力の奔流を感じているようだ。そして上を見上げる。

「カカっ!今なら一息に元の場所まで飛べそうだ」

 彼が翼を広げ、軽く浮かぶ。

 「こんな力を持ってたんだな。ヴェルゼ、ありがとう。体中が熱くて、痛くて……でも、今はただただ最高だ!」
 笑顔の口から牙が覗く。彼の元気な姿に私は目頭が熱くなる。

「よかった……本当に、……元気になって」

「カカカッ結果オーライだ!行こう、ヴェルゼ。反撃の時間だ!」

「きゃっ」
 ヴィシャスが赤い目を細め、私を抱き上げる。翼を広げると軽く浮かぶ。

「どうよ?この姿、カッコいいか?」

「…………そうね」
 顔が熱くなって彼の目を真っすぐに見ることができない。

「カッコよっかたり……するのかも……しれないわね」
 彼の腕の中で身体を縮こまらせただそれだけは言ってあげた。