忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。

 ヴィシャスが刀を抜き放ち、低く構え押し寄せる騎士に立ち向かう。

「ガルフ!」
「へい!」
 ナイフを両手に構えた腹心の部下と共に。

「はっはっはぁ!!」

 黒いコートが翻り、彼の瞳が鋭く光る。最初の騎士が剣を振り下ろすが、ヴィシャスは身を翻して避け、カウンターで太刀を横薙ぎに払った。金属の衝突音が響き、ヴィシャスの太刀が騎士を鎧ごと切り裂く。

「…………すごい」
 硬い筈の鎧がまるで布切れのように容易く切断されていた。

「ぐあっ!」
 騎士が倒れるが、すぐ第二陣が迫る。二人がかりで左右から斬りかかってきた。

「んっん~♪」
 ヴィシャスが身軽にジャンプすると空中で回転、地上の敵へ太刀を振り下ろす。一撃で一人の剣を砕き、もう一人に蹴りを入れる。骨の折れる音がした。なんて速いの……彼の剣術はまるで舞いのよう。重さを感じさせない動きで敵を翻弄している。

 ガルフもまた独特の歩法で上手く敵の攻撃を躱しながら要所要所で的確に急所を狙ってナイフを振るっていた。
 戦場を動き回る2人は数の不利をものともしていない。

「はっはっ! まだまだだぜぇぇ!」
 ヴィシャスが笑う。騎士たちが群がる中、彼は太刀を振るうたび、血しぶきが舞っていた。

「後ろ!」
 声をかける。彼の背後に敵が迫っていた。

「サンキュ!」
 敵を見ることなく、背中越しに刀で斬り捨てる。

 戦いは激化。騎士たちは訓練された動きで連携し、盾を構えて前進。ヴィシャスは足で蹴りつけ盾を跳ね除けるが、数が多い。盾の隙間から飛び出た槍で肩に浅い傷を負う。血が滴るのを見て、私はすぐに離れた位置から治癒魔法を飛ばす。

「助かるぜ」
 すぐに傷は塞がった。

「たく!数だけは多い連中だ、面倒くせぇ。魔法で一気に片づけてやる!「重力魔法【ディセント】」
 ヴィシャスが手を上に掲げ振り下ろすと上方向から見えない重力のカーテンが騎士にのしかかる。

「あっがぁぁぁぁ」
 重力に圧し潰され騎士は坑道の地面に這いつくばった。あの勢いで地面に叩きつけられたのだ。しばらくは動けないはずだ。

「ぐ、ぐぐぐぐ…お、おのれ。反逆者の分際でぇぇ。どこまで帝国に逆らうか!罪を重ねおって」
 ブグラーが上で歯軋り。恐らく精鋭であろう騎士達が軒並み潰されたのだ。プライドの高い聖騎士にとって耐えられない屈辱のはずである。

「あんたは来ねぇのかよ。刀の錆にしてやるから早く来な」
 太刀の刃先を突き付けブグラーを挑発する。

「…………誇り高き騎士は犯罪者と対等に戦わないのであーる。弓部隊、前へ」
「んん?」

 控えさせていたらしい弓を携えた部隊が前に出てくる。

「へぇ」
 面白そうにヴィシャスが見ている。余裕の表情だ。

「飛び道具じゃオレは殺れねぇよ」
「あっしもね」
 ガルフも危機を感じていない。大丈夫……なのかな?

「くくっ、では娘の方はどうであるかな?放て!」

「え?」

 放たれた矢の狙いはヴィシャスでもガルフでもなかった。矢の雨が私に降り注ぐ。

「あ……」
 思わず目を瞑る。

「しまっ!?!!」
「アニキ!」

「う…………」
 いつまで経っても予想していた痛みは私を襲わなかった。

「……?」
 恐る恐る目を開ける。

「かっっはっっ!……よぉ、無事かい?」
「あ……あ……ヴィシャス……」
 彼が私を庇っていたからだ。だけどそのせいで……。

「うそ…」
 背中にたくさんの矢が突き刺さっていた。血がダクダクと流れ地面を真っ赤に染めている。

「ぐはっ!ぐはははははっ!やはり庇いおったか!馬鹿め、やはり亜人は知能が低い!」
 ブグラーが笑う。

「引導を我が槌にてさしてやるのであーる!とうっ」
 上部の坑道から聖騎士が飛び降りる。

「ぼははははははははぁぁぁああああああああ!!!!!!大地魔法【アース・コラプス】」

 ドゴンッッッ!!!

 大槌が振り下ろされ地面が砕かれる。

「沈めェい、逆賊!」

「きゃ、きゃああああああああ」
 浮遊感が身体を襲う。
 足場が崩され、暗い底へと落とされる。

「く……そ。ガルフ、おめーは先に、行け」
 ヴィシャスが助けに来ようとしていたオオカミ型獣人を制止し、奥を指差す。
 それを最後に私はヴィシャスに抱きしめられながら真っ暗な闇へ落ちていく……。