「っうし!そろそろ行くぜ」

 夜になり皆が寝静まった時分に私達は行動を開始していた。互いに得た情報を擦り合わせるとやはり、連絡員の仲間は地下空間の奥に空いているいくつもの穴の中の内の一つ、坑道の先に幽閉されているらしいことがわかった。

 ヴィシャスはすぐに動き出したがったが、私は人の少なくなる夜まで待つよう説得。

 そして今、私達はその坑道の前に立っている。
 夜ということもあり、道に並んでいた魔鉱石のランプの灯はもう消えている。唯一の光源は手に持った携帯式のランタンだけだ。ヴィシャス曰く監督官から拝借したと言っているが絶対に許可を取っているはずがないので深くは追及しない。

 もうひと気がないから演技する必要もなく髪を元通り下ろしていた。前髪で目が隠れることで世界との断絶を感じ落ち着く。

 ヴィシャスもまた染めていた髪を元の赤色のぼさぼさ髪に戻していた。

 目前の坑道へ視線を送る。

「…………」
 ぽっかりと空いた黒い穴は吸い込まれそうで、まるで地獄へ続いているようだ。

「ん」
 手に温もりが与えられる。ヴィシャスが私の手を握っていた。

「オレがついてる」

「別に……こひゃがってませんけど?」
 しまった、強がろうとしたら噛んでしまった。

「へーー」
 ニヤニヤとヴィシャスが笑う。

「じゃあオレが怖いから手ぇ繋いでてくれよ」
「じゃあって何よ……」

「へいへい」
 なおも意地を張ろうとする私をよそに手を引いてヴィシャスが坑道へと歩き出す。

「…………普通お前はここに残ってもいいって言わない?」
「オレの傍より安全な場所なんてねーぜ」

 言い切った。こう言うセリフを照れもせずに言える所は素直にすごいと思う。

「…………」
 考えてみれば敵地のど真ん中に潜入中であるのだから一緒にいることは正論でもあったので黙る。ヴィシャスに負かされた気がして少し悔しい。

 坑道には線路が走っており真っすぐ伝って行けば目的地に到着できそう。

「…………」
「…………」

 坑道を進み続けると天井や両側の壁がなくなって道だけになっている。トロッコのための線路が引かれた通路は狭くないが、壁がないせいで道から落ちたら暗闇に真っ逆さまだ。下を覗き込んでも底が見えない。

 ドーム状の空洞が広がっており、上下を見ると私達が進んでいる道の他にも幾つか橋のように向かいの穴に繋がっている。各々の坑道の合流地点なのかもしれない。……繋がってはいないけど。
 それにしても気まずい、話すこともなくなっていた。

「……そう言えばガルフはどこかな?」
 雑談している場合ではないかもしれなかったが、沈黙に耐え切れず尋ねる。そう言えば鉱山町に潜入してからあのオオカミ型獣人の仲間の姿を見ていない。別ルートで侵入すると言っていたはずだけれど。

「ん?いるぞ?」
 私が思ってもいない発言をしたようにヴィシャスが言う。
「え?どこに……」


「すいやせん、あっしも実はずっとついてきてやしたんすけど、中々出るタイミングがありやせんて」
 後ろから声が聞こえた。

 「きゃっ」
 背後、坑道の闇の中からガルフが姿を見せる。