次の瞬間、轟音が響き天井が崩れ始めた。巨大な岩石が頭上から落ちてくる。採掘場の中央部、ちょうど私や労働者達が密集する場所だ。

「う……」
 ダメだ、早く逃げないと。そう思うのに恐怖で身体が動かない。スローモーションのように岩石が皆の頭上に迫ってくる光景を何も出来ずにへたりこんでしまった。嘘……こんな所で死んじゃうの。

「重力魔法【ワイドレンジ・フロート】」
 凛々しい声が聞こえた。

「ヴィシャス!!」
 安心感が胸に広がる。彼が手を挙げ魔法を発動させていた。
 天井が崩れ落ちて来ていた岩石群が空中で浮遊した状態で停滞している。重力魔法で重力場を発生させているのだ。ヴィシャスの魔法のおかげで、惨事は免れた。怪我人はいないようだ。

「ったく!あぶねーあぶねー、労働環境どうなってんだっつの」
 ヘラヘラとした軽い声とともに手を降ろすと岩石もゆっくりと地面に落ちる。

「貴様っ!お前、魔法を使ったな! 奴隷の分際で!隠していたのかっ」
 一早く安全に離れていた監督官が駆け寄り、顔を赤らめて怒鳴る。

「ああん?聞かれなかったからな。それに崩落を止めてやったんだ文句あっか!!」
「ぐ、」
 ヴィシャスの迫力に気圧されている。

「ん?ヴェルゼもこっちに来たのか?んな所で座ってると服が汚れちまうぞ」
 黙る監督官を放っておくと私に気付いて、彼が近づき手を差し伸べられる。

「……ありがとう、でも力が入らなくて立てなくて」
 手を取るが立ち上がれない。

「んーーー、そっか。なら!」
「え、ちょ」

 肩と膝に両手が添えられお姫様抱っこされた。

「~~~~~~~っ」

「何だぁ照れてんのか?カカッ、可愛いな」
 抱っこされたまま抗議としてヴィシャスをぽかぽか叩く。

「カカカッ!」
 分厚い胸板には大して効いてそうではなかった……。