お礼を言い、私はテント内の怪我人の治療を終えると私は急いでヴィシャスの元へ向かう。
 彼に情報を伝えるためだ。

 監督官の視線がチラチラとこちらを追うが、無視して進む。亜人奴隷ならばともかく、人間で治療も担当する私ならば呼び止められないと判断したが思った通りだ。特に止められることなく行動できた。

 採掘場は空間の奥、岩壁が切り立った場所だ。そこでは労働者たちがピックを振り上げ、壁を叩いている。カァンカァン、と音が反響し、埃が舞っていた。ヴィシャスはここに働いているはず。

 労働者達の姿がはっきり見えてくる。皆、汗と土にまみれ、息を荒げていた。疲労困憊で立っているだけがやっとの状態の者もいるが少し離れた場所でゆったりと椅子に座っている監督官は休ませてあげるつもりはなさそうだった。

「…………」
 ヴィシャスはどこにいるんでだろう?真っ赤な燃えるような毛を探して、今の彼が黒髪に染めていたことを思い出す。彼も背が高いが亜人種にはもっと大柄な者も多い。見つけるまで時間がかかるかもしれなかった。

 心細い……生まれてからずっと一人でいてばかりだったから孤独は平気なはずなのに……今こんなに不安を感じている自分のことがわからない。まるで親と離れた子供のようだ。いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。

 ヴィシャスに檻を壊されて外に連れ出されたからか、傭兵団で初めて自分が受け入れられる場所を見つられたからか。
 この変化が良いことかどうか今の私には判断できなかった。
 「ヴィシャス……どこ?」

 採掘場の中をゴロゴロと散らばる岩石で転ばないよう気を付けて歩く。一人の角を持つ亜人――牛のような角が生えた中年男性が、ピックを休めてこちらを振り返った。額に汗が滴り、目が疲弊しているがこちらを見る顔に疑問が浮かんでいた。

「何だぁ!?嬢ちゃん新入りかぁ!ここは嬢ちゃんみたいなヒョロっちぃのが来る所じゃねぇ」
「あっ、あの、私……人を探してて……こう、シュっとして、背が高くて、いつも……いつも自信満々で……恰好良くて……私なんかとは全然違って……」

 自分でも何を言っているか途中で分からなくなる。恥ずかしい。

「ああん!?そんな奴、そう言えば、気のイイあんちゃんが一人入ったっけ?」
 どうやらこの労働者には心当たりがあるようだ。

「その人はどこに……?」
 いますか?と尋ねようとした時だった。
 突然、地響きが起こる。

「え……?」
 天井から小さな石がパラパラと落ちてくる。労働者達が顔を上げた。

「っっっ!!崩落がくるぞぉぉぉぉぉ!?気を付けろぉぉぉぉぉ!!」
 誰かが叫ぶ。