直接、聖騎士の詰め所に乗り込み大立ち回りをしてはリスクが大きい。それに傭兵が騎士を斃したとあっては政府を刺激してしまう。私が提案した作戦は労働者たちの中に紛れ込み、内密に捕縛された仲間である連絡員を助け出す、ということだった。

「…………」
 沈黙が場を支配する。怖い………。

 失敗した場合はヴィシャスがこの場で戦闘開始することになっている。彼が負けるとも思えないけれど、荒事はできるだけ避けたかった。大けがをしてしまうかもしれないし…。
 ヴィシャスが静かに刀に手を伸ばす気配がする。

 ドスン、背後から重量感ある足音が響いた。

「ふむ、これは何ごとであーるかぁ!」
 出そうになった悲鳴を寸でのところで留める。背後に巨漢が立っていた。太い髭を指で弄りながら、こちらを品定めするような目つきだ。

「聖騎士ブグラー様!お勤めご苦労様です!」
 詰め所でだらけていた騎士達が一斉に立ち上がり頭を下げる。彼がこの集団の頭目なのだ。
 身長は高い方であるヴィシャスよりも一回り以上縦にも横にもデカい。身につけた騎士の鎧は詰め所にいる人員のものよりも装飾が派手で高位であることが窺えた。

「ううむ!町民共から働き者の吾輩達への差し入れをいただいてきたぞ!強制であるがなぁ!!」
 哄笑しながら手に持っていた袋から食糧や酒を詰め所内にぶちまけた。

「はは、大量ですな。しかし、ブグラ―様自らがこのような雑事は我々に任せてくださっても」

「ふははははっ!ほざけぇ。貴様らも町民共からの徴収で遊びたいだけであーろう、このしけた町では娯楽がないであーるからなぁ!」
「バレましたか」

 ガハハハッ、と騎士達は笑い合う。聞いている限り、彼等にとって鉱山町の住人は人間・亜人を問わず下に見ているのだろう。
 ヴィシャスが青筋を立ててイラついている。乱闘まで秒読みが始まっていそうだった。

「……それで、コイツらはだーれであるか?」
 ようやく私達に話が戻る。

「は!この女は、どうやら我々が管理し始めた鉱山で手持ちの亜人を働かせたいようで…」

「ふぅむ?見た所、人間にも見えるが?」
 髭面の騎士がヴィシャスをジロジロと見る。

「……は、ハーフなのよ」
「んばぁ!」
 私がフォローすると、が口を拡げて尖った牙を見せつける。

「どうします?……昨夜の件もありますし」
 配下の騎士が髭面に耳打ちしている。

「そ、それに私は治療魔法を使えるわっ。労働者がキビキビ働けるよう治療してあげてもよくてよっ」
 疑われ焦り、畳みかけたせいで早口になってしまった。果たして、どうなるか……。

「ほはははっ!!傭兵達は赤毛の男にオオカミ型獣人に小柄な性別不明の3人組と報告を聞いておる。この者らは違うであろう!引き続き鉱山町周辺で反逆者共の捜索は続けるのだぁ!」

「はぁ……しかし」

「ええい!どの道、採掘の人手は多い方が良い!使われたいのであれば使ってやろうではないか!」

 配下は不信感を拭えないようだったが、上司である聖騎士ブグラーは私達の提案を受け入れるつもりだ。誤魔化しきれたようで騎士達に気づかれないようほっと息をつく。

「ただし……給金には文句を言うなであーる!我らの言い値に従うのだぞ!」
 そうして私達は鉱山労働者として潜り込むことに成功した。