慎重に鉱山町を歩む。

 砂の混じった風に晒され傷んだ家々の壁には落書きのような騎士団の紋章が乱暴に描かれている。人通りはほぼなく、数少ない町民達は怯えた目で道を避けたり、壁際に身を寄せ合っていた。驚いたことに人間もまた亜人と同じく疲弊している様子が見て取れた。

 フードを深くかぶり、視線を地面に落とす。チラリと横の人物に視線をやる。隣を歩いている髪を黒く染めたヴィシャスが安心感をくれた。

 私達は変装し町に侵入している。襲撃を受けた時は夜であったため容姿を正確に把握はされていない……はず。ガルフはさすがに目立ちすぎるため同行してはいない。だけど、彼も姿を隠しながら町に侵入する手筈になっていた。

 そのまま鉱山町を横切り、労働者が働いている鉱山前の詰め所まで向かう。白いテントを木組みの枠にかけ作られた簡易な詰所からは騎士たちの笑い声が響いてきる。

「失礼するわ」
 怖気づいて声が震えないよう気をつけて、可能な限り自信満々かつ高慢に聞こえるよう声を張り上げる。

「誰だ?貴様」
 騎士達はテーブルで酒瓶を片手にギャンブルに興じていたようだった。紋章が胸に刻まれた白い騎士の鎧を着ていなければ野盗のアジトに入り込んでしまったかと思う所だ。
 詰め所を訪れた私達を威嚇するように睨みつけている。
 う……怖い……。声が詰まった。その時、ズイとヴィシャスが私を庇うように前に出た。

「…………」
 私がこの作戦を言い出した以上、やり遂げなくては……、勇気を出し目深に被っていたフードを外し、精一杯偉そうに腕を組む。

「鉱山で亜人を働かせていると聞いたわ!どぉかしら?私も頑丈な亜人を持っているの…よ!雇ってみないかしら!」
 いつもは長い前髪で半分以上隠していた顔を全て晒して私はそう言い放つ。