日が昇るとガルフは鉱山町に偵察に出かけて行った。

「斥候には斥候の技術ってもんがあるんですよ」

 あの大柄な図体ではすぐに見つかるのではないかと思ったがそうでもないらしい。一人の方が見つからない、と言って出かけると昼過ぎには難なく戻ってきている。おかげである程度の情報を掴むことができた。

「どうやら最近、視察にやってきた聖騎士のせいで亜人への弾圧が強まったみたいですわ」
 ガルフはそう切り出した。
 聖騎士とは世間知らずな私でも知っている有名な地位である。この国を守る騎士で一定以上の実力を認められた者だけが得られる称号だ。政治的地位も高く、発言力も強い。
 そう言えば宿屋で騎士の視察団の情報を聞いていたことを思い出す。

「いえね。今までも労働力として潰れない程度に亜人を扱き使ってはいたんですが、それでは手緩いと聖騎士が言い出したらしく…こき使うどころか奴隷労働と言ってもいいくらいの扱いになったみたいでさぁ…。口答えしたり、ノルマを達成できなければ鞭で打たれる懲罰をされてるようです」

 沈痛な面持ちだ。同じ亜人として他人事ではないのだろう。

「実際、街では亜人が貧相ななりで蹲ってる姿を多く見やんした…食事もまともに与えられてねーみたいです」

「そんな…」
 口を押える。
 帝都で見た獣人の亜人種の扱いも悪かったしショックを受けた。それ以下の待遇が世の中にあると思うと気分が悪くなる。

「今は町長に代わって張り切ってその聖騎士が町を仕切ってるみたいでさぁ」
「そんで…何でソイツがオレ達の会合を知ってやがったんだ?亜人弾圧が強まった理由は分かったが、連絡員との待ち合わせ場所に騎士共が来やがったかは今の説明だけじゃわからねぇぞ」

 これまで黙っていたヴィシャスが口を開く。冷静な表情ではあるが、内には怒りが渦巻いていることが見て取れる。
 平時の時と違って傭兵として意識を切り替えている時の彼は頼もしくもちょっと怖い。

「これから説明しますよ、アニキ」
 ヴィシャスが無言で先を促す。

「まぁ…そんあ状況だもんで、ウチの連絡員が懲罰を受ける町人を庇ったんですよ」
「立派じゃねぇか」
「えぇ…ですが、それが聖騎士の逆鱗に触れたらしく、連絡員は謀反の疑いがあるということで連行されちまった…」
 思わず息を飲む。話がどんどん不穏になっていく。

「んで聖騎士もただの嫌がらせのつもりだったと思うんですが、連絡員の家を捜査と称して荒らしやがって、ウチの傭兵団とのやり取りを記録した資料を偶然にもみつけられちまったみたいです」

 これが、今回の会合で思わぬ奇襲を受けた顛末。ガルフはそう締めくくった。

「そうか…そうか」
 ヴィシャスは目を閉じ真剣な表情で考えている。

 どうするつもりだろう。聖騎士は強者であることに間違いはない。専属の騎士団を率いていることから敵の数も多いだろう。
 今回はあくまで会合ということだった。戦闘は予定にないはずだけど…。

「今からちょっとぶっ殺しにいってくるわ」
 と、ヴィシャスは予想通りの言葉を口にした。

「ちょ、ちょっといくら何でも無茶じゃない!?」

「姐さんの言う通りでさぁ。一旦引いて作戦を練り戦力を万全にしてからの方がいい。鉱山町の亜人を救うのはそれからでも遅くないっす」

 刀を握りしめすぐにでも駆けだしそうなヴィシャスを止めに入る。ガルフの言うことが正しい。怒りはわかるけど今動いてもリスクが高いと素人の私でも判断できた。

「鉱山町の亜人はすぐに殺されはしねーだろうけどよ、連れてかれた仲間はどうだ?オレ達の戦力が整うまで聖騎士は優しく待ってくれんのかよ」
「…………」
「…………」

 目の前のことではなく大局を見て動くべし、大のために小は切り捨てよ。短慮を慎め、とラビィルさんなら言うだろう。
 だけど私は言うことができない。きっと私自身が切り捨てられてきた小の側の人間だからだ。

「はぁ…………わかりやしたよ」
 それはガルフも同じだったようで、思う所は多分にある様子だったがリーダーの意見を受け入れた。

「いきやすか」
 彼も愛武器のナイフを取り出す。本当に今から乗り込む気なのだ。

「ちょっ、ちょっとスーートップ!!」
 慌てて行先を塞ぐ。

「いくらアンタの頼みでも、やめることはできねーぞ。オレ達は強ぇ、聖騎士なんざそっこーで沈めてやる」
「いや連絡員さんを助けることは止めないよ!……だけどもうちょっとやり方を考えろって言いたいの!」
 いくらなんでも無策で敵の元へ突っ込まないでよ。そんなの自殺行為でしょうに。


「私に……私に考えがあるわ!」