「亜人ふごときが文句を言うな!」
ビクッ、険のある声が路地裏の方から聞こえて私は思わず肩を震わした。ひょっとしてヴィシャスが見つかったのかも。
心配になった私は声のした方に近づいていく。
「へへっ、で、でも旦那ぁ。その、へへ。代金がまだ頂いてないんでして…」
セイウチ型の獣人が平身低頭しながら身なりの良い、しかしでっぷりとした人間と会話していた。服装から察するに貴族だ。
「うるさいぞ…人間の靴を磨かせてもらえただけありがたく思え」
どうやら靴磨きをした分の代金を貴族が払い渋っているらしい。
「そ、そんなぁ、でも、オイラ…最近、稼ぎがなくてまともに食事ができていないんです…」
「知るか、草でも食べればよかろう」
貴族はとりつくしまもない。
「…………」
嫌なものを見てしまった。周囲には通行人や騒ぎを見物にきた野次馬もいるが誰も助けようとはしない。それどころか、野次馬はこのトラブルを楽しんでいるようだ。
どうしよう…。
オロオロしていると黒服の巡回兵が近くを通る。
「あ、…あにょぉ…」
しまった、人見知りな私は見知らぬ人相手にいきなり噛んでしまった。
「どうしましたか?」
優しそうな人で良かった。噛んだ私を笑わずに待ってくれている。
「そ、その…あそこ……なんか、お金のトラブルみたい…で、です」
震える指で貴族とセイウチ型獣人の方を指さす。
「ああ!」
拙い言葉でも理解してもらえたようだ。
「ご心配なく、私が出るまでもありませんよ。よくあることですから」
「え?」
セイウチ型獣人が殴られて地面を転がっていた。
「ね!」
これでもう心配ないと私を安心させるように微笑むと巡回兵の人はそのまま立ち去ってしまった。
「…………」
「そんなに金が欲しければくれてやるわ!拾えばいいだろう」
殴られ、地面に倒れたセイウチ型獣人に貴族が財布から出した金を叩きつけるように地面にバラまいた。
「へへっ。…ありがとうございます」
獣人に笑い地面に撒かれた小銭を拾う。
それを見て野次馬達は笑っている。通りかかった通行人は冷たい目で見下ろすばかりだった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
故郷での暮らしを思い出す。あぁあれは私だ。私なのだ。皆に忌み嫌われ隅に追いやられ排除され、損な役を押し付けられる。
「…………う」
私は震える身体を抑えながら前に歩み出る。
「だ、大丈夫ですか?」
見ていられなかった。セイウチ型獣人に声をかける。
「気にしないでくだせェ…」
「…一緒に拾いますから」
屈んで一緒に地面を拾おうとする。
「貴様…何をしている!」
「ひぇ」
前に出て獣人を手伝おうとする私を貴族が怒鳴った。
「あの…でも……こんなこと」
怖くて声が出ない。
「人間が亜人を庇うつもりか!地面に落ちた金など一緒に拾うな、みっともない」
「う゛…」
何か言わなきゃ、言うことはいっぱいあるのに何と言っていいかわからない。
「何とか言ったらどうなのだ!」
オロオロするばかりの私に業を煮やした貴族がステッキを取り出し振り下ろしてくる。
「あぅっ」
目を瞑る。
ビクッ、険のある声が路地裏の方から聞こえて私は思わず肩を震わした。ひょっとしてヴィシャスが見つかったのかも。
心配になった私は声のした方に近づいていく。
「へへっ、で、でも旦那ぁ。その、へへ。代金がまだ頂いてないんでして…」
セイウチ型の獣人が平身低頭しながら身なりの良い、しかしでっぷりとした人間と会話していた。服装から察するに貴族だ。
「うるさいぞ…人間の靴を磨かせてもらえただけありがたく思え」
どうやら靴磨きをした分の代金を貴族が払い渋っているらしい。
「そ、そんなぁ、でも、オイラ…最近、稼ぎがなくてまともに食事ができていないんです…」
「知るか、草でも食べればよかろう」
貴族はとりつくしまもない。
「…………」
嫌なものを見てしまった。周囲には通行人や騒ぎを見物にきた野次馬もいるが誰も助けようとはしない。それどころか、野次馬はこのトラブルを楽しんでいるようだ。
どうしよう…。
オロオロしていると黒服の巡回兵が近くを通る。
「あ、…あにょぉ…」
しまった、人見知りな私は見知らぬ人相手にいきなり噛んでしまった。
「どうしましたか?」
優しそうな人で良かった。噛んだ私を笑わずに待ってくれている。
「そ、その…あそこ……なんか、お金のトラブルみたい…で、です」
震える指で貴族とセイウチ型獣人の方を指さす。
「ああ!」
拙い言葉でも理解してもらえたようだ。
「ご心配なく、私が出るまでもありませんよ。よくあることですから」
「え?」
セイウチ型獣人が殴られて地面を転がっていた。
「ね!」
これでもう心配ないと私を安心させるように微笑むと巡回兵の人はそのまま立ち去ってしまった。
「…………」
「そんなに金が欲しければくれてやるわ!拾えばいいだろう」
殴られ、地面に倒れたセイウチ型獣人に貴族が財布から出した金を叩きつけるように地面にバラまいた。
「へへっ。…ありがとうございます」
獣人に笑い地面に撒かれた小銭を拾う。
それを見て野次馬達は笑っている。通りかかった通行人は冷たい目で見下ろすばかりだった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
故郷での暮らしを思い出す。あぁあれは私だ。私なのだ。皆に忌み嫌われ隅に追いやられ排除され、損な役を押し付けられる。
「…………う」
私は震える身体を抑えながら前に歩み出る。
「だ、大丈夫ですか?」
見ていられなかった。セイウチ型獣人に声をかける。
「気にしないでくだせェ…」
「…一緒に拾いますから」
屈んで一緒に地面を拾おうとする。
「貴様…何をしている!」
「ひぇ」
前に出て獣人を手伝おうとする私を貴族が怒鳴った。
「あの…でも……こんなこと」
怖くて声が出ない。
「人間が亜人を庇うつもりか!地面に落ちた金など一緒に拾うな、みっともない」
「う゛…」
何か言わなきゃ、言うことはいっぱいあるのに何と言っていいかわからない。
「何とか言ったらどうなのだ!」
オロオロするばかりの私に業を煮やした貴族がステッキを取り出し振り下ろしてくる。
「あぅっ」
目を瞑る。
