帝都には馬ででかけるようだ。私には乗馬技術がないためヴィシャスと一緒に乗せてもらう。私が前でヴィシャスが後ろから覆いかぶさる形である。

 背中に彼の胸板を間近に感じるこの体勢は少し恥ずかしい。

「…ねぇ、あなた酔わないの?」

 馬車でグロッキーになっていたことを思い出して尋ねる。

「あん?馬車で揺られるのと自分が馬に乗って駆けることは感覚が違げぇのよ」
「そう」
 とりあえず背中で吐かれることはなさそうだ。

「そういえば…今更な話になるんだけど」

「何だ?」

「私達が帝都に入って大丈夫なの?悪名高い傭兵団の長と魔痕持ちの女じゃない…」

 追われる立場な上に私の噂は帝都まで届いていると聞いている。

「んだぁ!ビビるこたぁねぇよ。オレがついてるって言ったじゃねーか」
「そうは言ったって…」

 いくらヴィシャスが強かったとしても帝都には精鋭の騎士や魔法使いの大群に襲われたら無事で済むとは思えない。

「ナイゼルが出かける時に魔法をかけてくれただろ」
「うん」

 帝都に出ると言うと止めたそうな顔をしつつも彼は私達の額に触れて何やら呪文を唱えていたことを思い出す。

「アレは弱いけど認識を阻害する効果がある。目の前で会話でもしない限り、はっきりとオレ達の容姿は認識できねーようになるんだ」

 そうだったんだ…、それならそうと先に言って欲しい。

「んじゃあ、出発するぜぇぇぇぇぇ!!はいドー!!舌噛むから口は閉じてなぁ!」

「え、ちょ、もっとゆっく……ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」

「ハハッハハハハハ!!!」

 ヴィシャスは私が馬から振り落とされないよう身体を支えてくれているようだったが、それでも激しく蹄を鳴らし駆ける馬の上は怖かった。