それからの日々は慌ただしく過ぎていった。

 ここには魔痕があることを理由に私を忌み嫌う者はいない。

 むしろ、自分達の希望として憧れの目で見てくれる。まぁそれが逆に居心地悪かったりもするのだけど……。

 当初は王の妃として尊敬され恭しく扱われていたけれど私の方からそれは辞めてくれと懇願した。
 特別な人間として敬われても自分の何もなさは自分自身がよくわかっている。忌み子扱いとは違った意味で居心地が悪い。

 頼み込んだ甲斐もあり、今では構成員の人達に(比較的)ラフな口調で話しかけてもらえるようになっていた。だからといって雑に扱われているわけではなく丁度良い。

 ラビィルさんが言っていたように、ここでは各々が自分のできることを担っていた。
 子供や女性、非戦闘員は薪割り、炊事洗濯等の家事手伝い、木の実の収穫等を行っている。

 大人は傭兵としてイリーガルな依頼を受けて金銭を稼いだり、苦しむ亜人種を救うための活動に勤しんでいるようだった。

 では、私に何ができるか?という話になるが…ずっと檻で暮らしていた私にできることはない。子供以上に何もできない自分に嫌気が差す。

 もちろん、このままではいけないと思った私は先輩達諸兄に教えを請い、無能なりに何とかできることを増やしていった。

 今はアジトの屋外で洗濯物を干している。

「ごめんなさいね。本当ならヴェルゼリア様みたいな高貴な方にさせるお仕事じゃないのですが」
 申し訳なさそうに頭から2本の角を生やした女性、アールさんが謝ってくる。

「いいえ…私は別に偉くないし…こんなことでしか役に立てないから」
「そんなことありませんよ。王の伴侶となる魔痕の持ち主がヴェルゼリア様みたいなお優しい方で私たちはとても嬉しいですっ」
「……………そう、ですか。後は任せてください」

 素直に賛辞は受け取れないままこの場を任せて、アールさんには別の仕事に行ってもらう。風邪が流行し休んでいる家事当番もいるから今日は特に忙しい。