ええ。私……あちらから是非にと声を掛けられたというのに、数分後には見事振られてしまいました。

「彼は何も悪くないわ……とても良い方で、褒めてくれているというのに、私ったら……頷くだけで精一杯だったのよ」

 そんな自分が情けなくて涙目になっている私に、戸惑ったイザベラは掛ける言葉に困っているようだ。

「え……! そうなの? けど、どうして? 感じの良い男性が褒めてくれているなら、感謝すれば良いと思うわ」

 イザベラとはついこの前の社交界デビューの夜会で、初めて会って意気投合したばかり。彼女は私が男性に対してのみ、何故口下手なのかと不思議そうだ。

 デビューの時にエスコートしてくれていた私の従兄弟と、彼の兄が知り合いでデビュー仕立てだから気が合って何度か話した。

 だから、イザベラは私が限られた親族以外の異性と話す時、異常に緊張してしまう理由を知らない。

「異性と話す時、すごく緊張してしまうの。上手く話したいけどそう思ってしまうほどに、上手く話せなくて……お父様が外交官だから、ほとんど家に帰らなくて……男性がほとんど邸に居なかったから、話をすることに慣れていないのよ」