望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

「シャーロット。一体、何があったんだ。アヴェルラーク伯爵家は、珍しく朝帰って来たお前がおかしくなってしまったと、当主の通夜のような暗い雰囲気だし、それにハビエル・クラレットから、何通か手紙が来ているらしいぞ……返した方が良くないか?」

 美々しく優しげな容貌だけど形の良い唇から吐き出されるのは、外見からはあまり想像しにくい乱暴な口振りだ。

「ちっ……違うのよ!」

 上半身を起こして、私は首を横に振った。

「何が違うんだよ。その通りの出来事が、今ここに起こっているじゃないか」

 立ったままのエアリスは眉を顰めて、腕を組み私へと言った。そうよね。それはその通りなのだけど、私にだって言いたいことはたくさんあるのだ。

「違うの……エリアス、良く聞いて! ハビエル・クラレット様は、マチルダ様が狙ってたの!」

「は? そんなの、とても有名な話じゃないか。今更、何を言ってるんだシャーロット」

 私の決死の訴えに、不可解そうな表情を浮かべるエリアス。ちなみに彼は、私より二つ年上の十八歳だ。それだけ、社交界での経験が長いということを示していた。

 ……やっぱり、そうなんだ!