望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

 だから……こんなにも、すごく人気の騎士団長様なのに、浮いた話ひとつ聞いたことがなかったんだ……。

 きっと、ひそひそ噂している令嬢たちも、なんとなくそれを察していた暗黙の了解で、社交界デビューしたばかりの私たちは、とにかくそういうことにしておこうっていう表向きの理由しかまだ知らなくて……それで……会話の練習相手に、彼を安易に選んでしまったんだ。

「シャーロット。今夜は気温もちょうど良いし、星空を見上げながら眠ろう。朝日が出たら、送って行くよ」

 すっと軽い動作でまた私を横抱きにしたハビエル様は、窓からすぐの屋根の上に敷いた毛布の上に私を寝かせてくれた。

 屋根の上とは言え、外で寝るのは危険でない……? と思ったけど、彼は騎士団長で、きっとここは騎士団寮。危険が入り込む隙もない安全な場所なのかもしれない。

 え……本当に信じられないけど、声を掛けてくれていた男性とダンスを踊っていた頃から、一時間も経っていないのに今まで絶対に想像もしなかった未来に私は居るんだわ。

 なんだか、遠い目になりながら、私は満天の星を見上げた。

「……綺麗」

 綺麗な星空には、罪はない。