絶対に知られたくないと思ってしまった……刃物のような鋭い視線を向けるマチルダ様の誰何の問いかけに、私は全身を緊張させてしまった。

「あ。済まない。名前を聞いていなかった」

 私が言うのもなんですけど、名前も知らない人と、結婚するつもりだったんです……!?

 マチルダ様には、私が誰か知られたくない。しかし、私の名前を待っている様子の王家を待たせるなんて、臣下たる貴族として出来ない……!

「しゃ、シャーロット・アヴェルラークっ……です」

 流石に言い慣れた名前は噛まずに言えて、部屋の中に居た身分の高い面々は、同じ家名を持つ私のお父様を思い浮かべたようだった。

「ああ。この子……ご令嬢が、アヴェルラーク伯の一人娘か……ハビエル、それで良いのか? お前は、伯爵になることになるが」

「はい。俺の場合、兄が二人居るので、爵位持ちのご令嬢に声を掛けて貰えて、ちょうど良かったです。ありがとう。声を掛けてくれて」

 私に向けて感謝を述べ、にこにこと満足そうなハビエル様。

 俺に、声を掛けてくれて……?