望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

 負けたくはないけれど、彼に女性として好きになって貰わなければ……好きになって貰うには、令嬢らしくお淑やかに……そんな相反する気持ちが邪魔して、言葉が出て来ない。

 けれど、いつまでも話せないと言い訳をして彼と話さないと始まらないし、このままずっと石板のお世話になるわけにもいかない。

 そろそろ筆談ではなくて、ハビエル様と直接お話しをしたい……私だって、甘い時間を過ごしてみたい。

 最近は、あまり邸で顔を見られなくなってしまったハビエル様に会いにお城へと向かうことにした。

 私が彼と一緒に何度か登城したこともあり、ハビエル様の執務室の位置も、もう既に把握していた。

 勝手知ったる城の廊下を歩きながら、人の少ない渡り廊下に差し掛かった時に、私は何人かの黒づくめの男たちに囲まれた。

 そういう訓練をされていない私には……すぐには、何事が起こったのか、理解出来なかった。

 けれど、彼らが揃って立ったままの私へと斬りかかり、どこからか高い悲鳴が聞こえてから、これは現実なんだと私は認識して、サッと身をかがめ一人から剣を奪った。