「……開始!」

 ヒューバート様の低い声が響いたので、私はスッと後ろへと、一歩引いた。マチルダ様は予期せぬ動きに怯んだようだけれど、何歩か前へ踏み込んだ。

 彼女の学んだ剣術では、そうするようにと学ぶからで、私もそうするだろうと思った。

 同じように背後へと動いた私は、彼女の動きをつぶさに観察していた。

 ……剣筋は悪くない。女性だけれど、少ない力を最大限使えるような身体の動かし方だった。

 おそらくは生来なんでもこなしてしまう器用な方で、必須で学んだ護衛術の剣術も、ある程度は物にしていそう。

 ある程度は……だけれど。

 私はマチルダ様の実力を把握したと踏んだ時、遠慮なく前へと踏み込み、彼女の剣を受け止めて、何度か剣を合わせた。

 まさか、私がそんな動きを見せると思っていなかったらしいマチルダ様は防戦一方になり、彼女の太刀筋を正確に見抜き全て押し返した。

 そして、剣の衝撃を何度も受けマチルダ様の手が限界と見るや、横薙ぎに剣を走らせると、彼女の持っていた剣が宙を飛んだ。