望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

 こんな時にも、マチルダ様のくるんくるんとした金色の巻き髪には、ひと筋も乱れはなかった。そして、シンプルな白いシャツにも、高価そうなレース……流石、お姫様。

 観客は居ない代わりに、勝負の見届け人として、王太子ヒューバート様とハビエル様がいらっしゃっていた。

 ハビエル様は『何かしらないけれど、城で喧嘩になった二人が勝負することになった』という情報だけしか知らないことになっている。本当は知っているけれど……そういう、無駄な知らない振りも止めさせてあげたい。

 そして、王太子ヒューバート様は妹マチルダ様に対し、とても甘く接しているかというと、実はそうではないらしい。

 もし、これで私に負けたならば、ハビエルのことを諦めるようにと、勝負の前に何度も何度も言い含めていたので、彼女もそろそろ良い加減に他の縁談相手を見るように思われていたのかもしれない。

 政略結婚と言えば、王族が多いし……私たち貴族はそういう役目を負うことで、平民たちからは夢のような生活を送れているのだ。

 私はマチルダ様の剣の構えを、じっと観察していた。彼女は正統な騎士の剣術を学んでいる構えだ。